エビデンスベースの指導、できているつもりになっていませんか?
トロント大学の心理士とダンス学科教授の論文をもとに
バレエのレッスンやエクササイズをどう組み立てれば
生徒の目標に合った安全な上達につながるのか。
「プロセスとゴール」の視点から整理してみました。
Transcript
みなさんこんにちは、DLSの佐藤愛です。
新年は、知ってる言葉だし、なんとなく想像がつくけど
今更細かく聞けない話として、「エビデンスベースって何?」という話をしています。
今日でシリーズ4回目となるのですが
何か新しい発見はありましたか?
目から鱗が落ちた情報はありましたか?
それとも、全部知っていることだった?
ポッドキャストの感想はhello@dancerslifesupport.comへメールで教えてくださいね。
YouTubeでお聞きの方は、エピソードの下にコメントを残していただけると
私が嬉しいだけでなく、日本語でYouTubeを使っていて、バレエに興味がある人達に
ポッドキャストを知ってもらえるチャンスが増えるので、助かります。
そうそう、11月末よりYouTubeで新たな試みを行っているのに気づきました?
実は、YouTubeの新しい企画と、2026年のポッドキャストゴールは繋がっているんです。
今年最初のエピソードで、エビデンスベースに話を進める前に
やけに時間をとって私がポッドキャストの数字についてお話していたの、覚えています?
それね、ただのおしゃべりポッドキャストだったのではなくて、いくつかの布石だったんです。
今年で12年目になるDLSポッドキャスト
色々と数字を見たうえで、2026年のゴールは
「日本一のエビデンスベースなダンサーポッドキャストを目指す」だとお話しました。
具体的には毎週
- より良いエピソードをお届けできるように努力すること
- よりマニアックで、より深く、科学的根拠をお話すること
- より現場に寄り添った、時代にあった内容をダンサーに提供すること
という努力をする、というゴールです。
だから、1月は「科学的根拠のあるバレエレッスンに向かって」
というシリーズをお送りしてきています。
「そっか、よりマニアックで、より深く、科学的根拠のあるお話をすること」
というゴールに向かったエピソードなんだな
と思ってくださった方、どうもありがとうございます。
エビデンスベースなビジネス判断?
でもね、このゴールを考えていた時、ちょっと悩んだ部分があったんです。
- あまりにも科学的根拠とか、エビデンスに傾いてしまうと、聞いている人がつまらないんじゃないか?
- おしゃべりポッドキャストで、愛さんの近況が聞けるエピソードが好きという人に、近況をお伝えする場所がなくなってしまうんじゃないか?
1つ目の悩みは、バレエの先生が
「基礎ばっかり指導していたら、つまらないレッスンになっちゃうんじゃないか?」
と悩むのと同じかなーと思いました。
解決法は、マインドセットシフト。
基礎「が」つまらないのではなくて、レッスン「が」つまらないということに気づいて
「どうやったら、基礎を楽しく提供できるか?」を考えるべきなんですよね。
私のポッドキャストでも、同じことを考えました。
エビデンスや科学的根拠「が」つまらないのではなくて、伝え方の問題だとしたら
私の会話力を磨く必要があるんだってこと。
逆に、その部分が改善していなかったら
エビデンスだろうが、科学的根拠だろうが、最近のアイドルの話だろうが
つまらないものは、つまらないでしょうね。
2つ目の悩み、「愛さんの近況が聞けるから好き」と言ってくれる人達へは
どうやって応えていったらいいだろうか?
特に今年は、私のガン治療のため来日セミナーをキャンセルしたため
1年に1度、皆さんと会えていた時間が無くなってしまう。
そうすると、DLSがより機械的なというか、ネット上の情報発信だけになってしまって
コネクションがなくなってしまわないか?
その悩みを解決する場所をYouTubeのブイログに移行したんです。
ブイログって分かります?
ブイ、というのはビデオの頭文字、ログというのは記録という言葉。
そのためブイログとはビデオ記録という言葉で
意味は日常を動画で記録したよ、という感じとでもいうのでしょうか。
既に見てもらっている人も多いと思うけれど
2週に1度、私のオーストラリア生活を切り抜いて、皆さんにお送りしています。
ホームオフィスとか、近くのカフェとか、図書館や、遊びに行った様子まで。
そういうところで、近況をお伝えしたり
皆には会えないけど、こうやって仕事してるよーという様子を
お届け出来たらいいんじゃないか?と考えつきました。
昔は、インスタライブをしていたじゃない?
それも良いのだけど、治療中はいつ、病院のアポイントメントが入るか分からなかったし
その日がどういう体調なのか見当もつかない。
そのため、ライブではなく、録画や編集が出来るブイログに決めました。
さーて、また長く話したポッドキャストやらブイログ。
これが、今月のエビデンスベースに繋がるのか?
私の頭の中では繋がっています。
ポッドキャストを続けるか否かの判断は
視聴率、ダウンロード率という数字を見て判断しましたよね?
これは、主観ではなく、客観的に、データを見て判断しました。
そう、エビデンスベースなビジネス判断。
でも、その後のどういう内容にするか、どのようなゴールを掲げるか
空いてしまった穴はどうやって埋めるか?はエビデンスベースではなく
私がどういう作業が好きで、どういう体調で、どういう制限があるか
そして、リスナーさん達から過去にもらった声を意識して考えました。
これが今月お話してきたエビデンスベースの3つのポイント。
エビデンスベース、という言葉の定義から導き出した、エビデンスベースのバレエ指導とは、
- 最新の、今手に入るベストな研究や、科学的根拠を
- 先生が、自分の生徒、スタジオなどの現場に当てはまる形にする知識をもち、
- 生徒の状況や考えを尊重する形で提供する指導
となるとお話したじゃない?
これが、データ「だけ」に偏らないポッドキャスト判断の元になっていました。
今週、来週を使って
カナダのトロント大学の准教授と、ヨーク大学ダンス学科の教授によって書かれた論文
「スキル習得・熟達・ポジティブな自己イメージを高めるための戦略」
に出てくる16のポイントをお話していきたいと思っています。
ですが、くれぐれも過去3回に渡ってお話してきた
エビデンスベース指導の定義を忘れないでくださいね。
確かにデータは大切です。でも、データだけでは、指導は出来ない。
データを「基」に、先生、スタジオオーナーが
自分の生徒や現場に当てはまる形、生徒の状況や考えを踏まえる形で
取り入れてください。
コンクールも、ストレッチもそう。
OOコンクールに出た45%がバレエ留学している、というデータを見たとして
このデータは話の関係上勝手に作った数字なので、信じないで下さいね
じゃ、ケガしていても、精神的に準備が出来ていなくても
家族が金銭的なサポートが出来なくても、コンクールに出るべき!と考えませんよ。
ネットで見たプロダンサーの多くがかかとをローラーの上に乗せて前後開脚してるから
うちの子達にもやらせなきゃ!って考えないよ?
年齢もかけ離れているし、レッスン量やレベルも違うし
なによりプロダンサーはカンパニー内の治療家に診てもらうの、タダだからね?
エビデンスベースなバレエ指導 セクション1
では、ようやく本題に進みましょう。
先ほどもご紹介した論文には、エビデンスベースの指導ガイドラインが載っています。
合計16ポイントあるのですが
- Process and Goals(プロセスとゴール)
- Influences Affecting the Dancer(ダンスに影響を与える要因)
- Structure and Content of the Class(レッスンの構成と内容)
という3つのセクションに分かれています。
今日は1つ目のセクション、プロセスとゴールの4つのポイントをご紹介しますが
時間と著作権の関係上、論文の全てを日本語訳にはしませんよ。
読みたい方はDLSサイトよりポッドキャスト597を検索してリンクを探すか
YouTubeの詳細ボックス内のエクストラリソースリンクを参照にしてください。
1、初日からやらなければいけないゴール設定
1つ目のポイントは、SMART プランニング。
ここで言うスマート、とは
- Specific、具体的である
- Measurable、測定が可能
- Achievable、達成が可能
- Relevant、自分がやりたいこと、方向性に関連がある
- Time-bound、締め切りがある
という言葉の頭文字をとったものなんです
エピソード538で詳しくお話しているので今日は割愛します。
論文には
「初日から、教師は明確な目標と期待を設定する必要があります。」
と書いてあります。
そうすることで、クラスの目的について生徒が混乱することがなくなるからです。
生徒達は、ゴールが具体的であれば良い反応をしてくれるそうで
アレグロ持久力アップとか、片足でバランスの改善など
本人たちも練習の成果が分かるものをゴールに掲げるようにします。
年齢に合わせた運動能力の成長と、体の成長を理解した上で
1回のレッスン、長期ゴールの両方が必要…
ってここで、「教師の為のライブラリ」で
「レッスンプランの立て方」クラスを受けた先生たちは気づくかも。
そう、何を言っているかというと
エビデンスベースで、生徒が上達するレッスンを提供するためには
まず先生がクリアなレッスンプランを作る必要があるんですね。
2、生徒に選択権を持たせる
1つ目のポイントでやったゴールが決まると
それに向かって生徒達が個人的な目標を立てられるようになる、と続きます。
自分で自分のゴールを決めることは、モチベーションになるのだそう。
生徒達に自分のゴールを書いてもらったり、バレエノートをつけることで
努力の方向性がクリアになるそうです。
レッスン内で生徒に選ばせるのは、ゴールだけではありません。
様々なところで生徒に選択権をもたせり、目標を決めることが出来ると書いてあります。
例えば、新しい振付を学ぶ際に
「今やった部分を復習するか、難しい振付を追加するか、次のフレーズに進むか」など
選択肢を与えることが出来るとのこと。
3、グループレッスンでも、自分自身を最大に活かす
3つ目のポイントでは
「先生は生徒達に、それぞれの解剖学的な、体の違いや質を理解して
尊重できるような指導を提供しましょう」と書いてあります。
ここでは、understand、理解するという単語だけでなく
embrace、前向きに受け入れる、尊重する、認識するという
ポジティブな単語が使われています。
そうすることで、周りと自分を比べて、足りないところ探しをするのではなく
自分自身の可能性を最大限に引き出す方向に努力することが出来るようになるそうです。
もちろん、他の子達の良いところや努力している部分が分かることで
皆それぞれ頑張っているんだな!ということに気づくはず。
そのように指導していけば
ダンサーたちがより自立し、仲間にも頼れるようになり
先生の目だけ気にすることが減るそうです。
このセクションには、生徒同士で話し合ったり
フィードバックを伝えたりすることが
ダンサーにとって大切だということが書いてありました。
4、リスペクトをスタジオ習慣に定着させる
セクション1の最後のポイントは
「独裁的な規則や、良いことだから、としてではなく
集中力とスタジオ生徒同士の敬意を最大限に高めるための雰囲気という視点から
クラス内のエチケットを明確にすることは大切だ」と書いてあります。
独裁的な規則と言うのは
先生が言ったから、先輩がやってきたから、などという感じでしょうかね。
でも、その後に続く言葉から、先生への忠告のようにも聞こえます。
「レッスン中静かな雰囲気を保つことは
ダンサーたちが他の人の学びの過程を支え、尊重することを促すためであり
先生が生徒の行動をコントロールするためではない。」
つまり、先生に怒られるから静かにしなきゃいけないとか
先生が怖いから言い返さないのではなく
他のクラスメイトをサポートしリスペクトするから
レッスン中は静かにすべきだ、ということ。
そういった雰囲気は
「最適な学びを促し、競争ではなく一体感を生み出す。」のだそうです。
明日のレッスン、何を取り入れる?
ということで、エビデンスベースの生徒が成長するレッスンを語った論文より
4つのポイントをお話しましたが、いかがでしたでしょうか。
先生たちは
どれくらいレッスンで取り入れられていた?
ダンサー、保護者は
お世話になっているスタジオ、先生はどれくらいやってくれている?
今日のエピソードで時間をとってお話したように
たとえこの4つのポイントがエビデンスベースだったとしても
自分のスタジオに合わせる必要はあります。
例えば
幼児クラスだったら、振付について意見を言う事は難しいでしょうし
大人クラスだったら、お互いにフィードバックを伝える時間はとれないと思います。
でも、幼児クラスでも
「この曲は、優雅なお城の感じ?それとも森の中で妖精さんと一緒にいる感じ?」
なんて会話は出来るかもしれないし
大人クラスだったら
「今月はピケターンを練習していきます。
まずはそのステップのベースとなる素早いルティレバランスを練習しましょう」
みたいな感じで、レッスンの目的や、どのように進んでいくのかを
理論的に説明すると分かってくれると思います。
ということで、エピソードを終わりにしましょう。
次回のポッドキャストでは
セクション2「ダンスに影響を与える要因」を見ていきましょう。
Happy Dancing!
