今日のポッドキャストでは「バレエ向きの体」を深掘りします。
多くのダンサーが一度は聞いたことがあるこの言葉、実は解剖学的には存在しません。
バレエ解剖学の視点から「バレエ向きの体」という言葉を解説し、健康で効率的な体の使い方についてお話します。
柔軟性や細さだけではない、本当のバレエ向きの体とは何かを一緒に考えてみませんか?
Transcript
絶賛冬の南半球よりお送りしておりますDLSポッドキャスト、
皆さんの早口ホスト、佐藤愛です。
日本語でホストというと、六本木な感じというの?
夜のお店的なイメージがあるかもしれませんが、
英語のHostとは主催者、司会という意味の言葉です。
だからホームパーティーをするとしたら、そのお家の人がホストだし、
ポッドキャストやラジオの場合は、メインでしゃべっている人。
つまりDLSポッドキャストなら私がホストになるんですね。
もちろんホステス、と女性名詞にすることもできますが
- スチュワーデスではなく、キャビンアテンダントやCA
- バレリーナ、バレリーノと分けず、ダンサー
と使うのと同じように、
現在では、性別に関係なく「ホスト」を使用するのが主流ですね。
多分私の父世代はまだスチュワーデスとか、OLさんなんて言うんでしょう。
OLって言葉も男女平等から遠く離れた歴史をもった言葉ですが、
英語だと思っている人たちがいるので一応言及しておくよ。
これは、雑誌が募集して決まった、和製英語だからね。
もし、未だにバレリーナという言葉を使っている方がいたら、
この機会にそっと言葉を変えてくださいね。
何を隠そう、DLSでも「バレリーナの卵セミナー」というクラスを、
パンデミック前までやっていました。
「日本では、バレリーナという言葉が当たり前だし」
という簡易な考えのもとでしたが、
パンデミック中にいろいろと社会的な問題が露呈されて以来、
サイト内の表記変更はもちろん、バレリーナという言葉を使わなくなりました。
だからね、今使っているスタジオがあっても
「何でそんなことも知らないの?!」と言いたいわけではないです。
何らかのきっかけがあって、考え方を改めるということがあると思う。
それが、DLSのポッドキャストだったらとても嬉しいです。
パンデミック初期や、そのあとに出た上半身本宣伝の時期のポッドキャストでも
このエリアの話をたくさんしているので
今日はここまでにしましょう。
今日のポッドキャストのテーマは
「バレエ向きの体って何か?」ということについて。
色々なセミナーで話してきているので、
すでにブログやポッドキャストになっているかと思いきや、
これ「だけ」をテーマにした記事は書いていませんでした。
なので、今日は袖をめくって、このテーマについて
鬼にならないように意識しつつ、お届けしようと思います。
「バレエ向きの体」とは?
「バレエ向きの体」という言葉を聞いたことがありますか?
同じような意味で、「恵まれた体」というバージョンもありますね。
実はこの言葉はDLS公認スタンスインストラクターコースの4期生の最初の授業、
ウエルカムパーティーでも何度か聞きました。
Again、その人たちを非難するエピソードではありません。
私も踊っていた時に、「バレエ向きの体」というものがあると思っていたし、
バレエ学校で働いていた時も、多くの先生たちが同じような意味の単語を使っていました。
もしかしたら、DLS初期には私も使っていたのかもしれません。
もう10年以上前の話ですが。
でも、バレエ解剖学を勉強すればするほど、
バレエ向きの体は存在しないことに気づきます。
ただの解剖学ではなく、バレエ解剖学というのがキーワード。
バレエの動き、テクニック、求められるものを、
解剖学を使って考えるというのが、私の考えるバレエ解剖学ですが、
バレエの正しい動きや、求められるものを知らなければ、
このような考え方には行きつかないでしょうけどね。
「バレエ向きの体」という言葉が指すものは
- ターンアウトが出来る股関節+柔軟な股関節
- 甲がでる足
- 長い手足、首
- 細い体
という感じが多いのではないでしょうか?
大雑把に分析すると、柔軟性と細さ&長さ。
ほかにも
- 色白
- はっきりした目鼻立ち
なんていうのをつける人もいます。
ただ、この部分は白人至上主義的な人種差別なので、
今日は飛ばしていきますが、
発表会の時に、肌を白塗りするのはここからきているんですよ。
これも、スタジオでやっていたらすぐに辞めてくださいね。
どの肌の色の人もバレエを楽しむこと、踊ることが出来るはずです。
バレエの歴史は、世界の歴史と同じように
肌の色を差別の対象としてきました。
現在もこの問題は根強く残っていて、
先生たち、ダンサーたち、保護者も含め
私たちが声を上げ続けなければいけないエリアでしょう。
でも、話がずれるので今日はここまで。
さっきあげた「バレエ向きの体」リストには
テクニック部分は含まれていません。
どれだけ回れるか、飛べるか、バランスがとれるか、表現力があるか。
そのような部分は、無視されるようです。
多分、そのエリアは「後から努力すればいい」と思われているのかもしれないですね。
体型は変えられないからって。
ただ、面白いことにいざそのようなテクニックの話になると
「才能がある」という言葉が出てきます。
「Grit」という、私の大好きな本の一部に、
ニーチェの言葉が載っているのですが、それを引用しますね。
「芸術家の素晴らしい作品を見ても、それがどれほどの努力と鍛錬に裏打ちされているかを
見抜ける人はいない。
その方がむしろ好都合と言っていい。
気の遠くなるような努力のたまものだと知ったら、
感動が薄れるかもしれないから。」
とか
「天才というのは神がかった存在だと思えば、
それに比べて引け目を感じる必要がないからだ。
“あの人は超人的だ”というのは“張り合っても仕方ない”という意味」
と書いてあります。
ニーチェは結構辛辣だったみたいです。
「“天賦の際を持つ人”を神格化してしまったら、やすやすと現状に甘んじていられるから楽だ。」
とも言っていたそうです。
私は「バレエ向きの体」だった
ちなみに、来日セミナーで実際の私にあったことがある人達が
口を揃えて言う言葉は、「本物は大きかった」というもの。
体が大きいもんだから、それと比べ顔は小さく見えます。
私は身長が170ほどありますし、手足も長いほうです。
股関節をはじめ、関節の可動域は広く、
学生の時の写真をみると、やけに長く見える首や、
日本人にしては派手、と言われる顔をしています。
父方の家族は東北出身なので、比較的色も白いです。
メイクが派手と思われがちですが、
顔が濃いので、少しメイクするとがっつりメイク顔になります。
私の妹の美大の同級生で、一時期DLSで働いてくれたことがある方によると、
- 妹さんは、濃い鉛筆で描いたような顔
- 愛さんは油性マジックで書いたような顔
だそうです。
美大院卒の分析なので、たとえが面白いですが伝わりやすいと思います。
では、私はダンサーになったか?
ご存じのように、答えはNOです。
コルセットして、中学に通っていた時期もあれば
コンクールで大きな賞を取ったこともありません。
ケガしてオーディションを受ける前に辞めました。
バレエを辞めた後でも、日本に戻る飛行機の中で、股関節が亜脱臼し
フライトから降りるのも大変だった時もあれば、
6時間を超える腹部手術の後は、可動域の広すぎた腰椎に問題が起こり、
3年ほど、まっすぐに寝転がることが出来ませんでした。
これをバレエ向きというんだろうか?というのは
皆さんの想像にお任せします。
バレエ解剖学で考える「バレエ向きの体」
さて、話を私1人のケーススタディからバレエ解剖学に戻しましょう。
確かに、股関節の形によって、外旋、つまりターンアウトの方向に脚を動かしやすい人は存在します。
でも、股関節の持っている外旋最大角度は45度。
つまり、完璧に股関節からターンアウトした1番ポジションは90度となります。
たとえ、一般的な可動域より広いとしても、2-3度でしょうが、
100歩譲って5度ずつ広かったとしても、100度の1番ポジションまでです。
これでは、フラットな5番ポジションに入れることはできません。
ではどうするか?
クラシックバレエで求められるポジションは、
股関節からだけでなく、膝関節、足首関節、そしてフットの部分の関節を動かして作ります。
この部分は、私の「ターンアウト出来てますか?」本で書いているので、
多くの人がすでに知っているでしょう?
自分の持っている体を最大限に使える強さを持つダンサーを
目にすることも珍しいとも追加しておきますね。
この事実を踏まえ、たとえ一般の人より股関節の可動域が狭かったダンサーがいた場合
- 自分の持っている股関節の可動域を最大限に使うトレーニングを行う
- 膝、足首をケガリスクを減らせるように、下半身の強さを作る
- 自分の体のケアを行う
とすれば、「フラットターンアウト」と呼ばれるの域で踊ることは、理論的に可能です。
逆に、股関節が外旋しやすい人でも、
バレエレッスンや、ダンスに特化したエクササイズをしなければ
5番ポジションを維持することはできません。
もちろん、舞台では
ターンアウトしないで踊るステップもたくさんあります…
次は脚の高さに話を持ってきましょう。
スプリッツ、開脚、カエルさんがいとも簡単に出来たら
バレエ向きな子だと言われがちですが、
骨盤を動かさず、膝を伸ばし、自分の力で足をあげるとしたら
- デヴァンに60度
- アラセコンドは45度
- デリエールは15度
が最大可動域と言われています。
教師のためのバレエ解剖学講座モジュールでカバーしたから、
セミナーに参加した人は覚えているよね?
さっきやったように、100歩譲って5度から10度エクストラの可動域をあげるとしても、
アダージオの足は90度以下になってしまいます。
では、どうするか?
骨盤を傾け、背骨の可動域を巧みにつかって
脚を高く上げることが出来ます。
つまり、股関節の可動域に制限があっても、
脚を高く上げる方法はたくさんあるわけです。
背骨が柔らかい必要があるんじゃない?と思った人
その通りですが、背骨のすべての方向への可動域が必要なので
エビぞりして、足の裏が頭についても意味がありません。
アラベスクの背骨は伸展だけではないからです。
もう流れが見えてきたと思うけど、
つま先を伸ばすということも、関節なので同じように考えていけます。
ダンサーの足セミナーでお話しているように、
つま先を伸ばすときに動く関節はたくさんあるので、
1つの関節に制限があっても、ほかの子たちがカバーすることが出来ます。
プロのダンサーでも、甲が出ているように見せるための
パッドを使うことも多いです。
皆さんがつけまつげをするように。
ということで。
バレエの動きを解剖学的に分析した際、
「バレエ向きの体」と言い切るためには明確な定義が必要で、
バレエの動きが複雑な、多関節を巧みに使う動きであることを考えると
定義するのは非常に難しくなります。
もちろん、ダンサーは柔軟な人という意味の言葉ではないですね。
アーティストであり、アスリートでもある。
脚を高く上げない役もあれば、
つま先を伸ばすことが出来ない靴で踊る事もある。
ただ、どんな役でも、どんなカンパニーでも
体を使って表現する職業なのだから、
- 怪我して踊れなくなったら
- 病気で体が動かなくなったら
ダンサーになることはないでしょう。
手足の長さ、身長の高さとバレエ
「愛さん、身長の高さや手足の長さはどうなの?」
と思う人もいますよね。
この部分は、カンパニーが求めるものが違うので、
1つの体型が完璧というのは存在しないようです。
求められるバレエダンサー像というのも流行りというのがあるようです。
バレエをはじめ、生きた芸術である舞台芸術は
時代と共に求められる形が違うんでしょうね。
その様子は、昔のダンサーの写真を見ても分かります。
そうはいっても、解剖学の目線からも
骨の長さは確かに変えることが出来ないエリアだと思います。
身長って、骨の長さだからね、手足の長さと共に一緒に見ていきましょう。
この部分だけを考えるなら、
レッスン回数とレッスン時間の徹底したコントロールと
食事量を減らさない努力が必要です。
先週のポッドキャストでお話したように、
健康な骨、筋肉を作るためには、食事量が必要です。
また、成長期に体のもっている一番の長さを作るためには、
成長期にエネルギー不足になっては困ります。
身長を伸ばすことVSサバイバルだったら
人間の体はサバイバルを選びます。
つまり、ダイエットをしていてエネルギー量に限りがある場合、
身長を伸ばす方に使われません。
寝る時間は、骨を伸ばす時間でもありますし、
練習のし過ぎは骨端線への悪影響が考えられます。
骨端線というのは、骨が成長する部分です。
そこが傷ついたり、つぶされてしまったら、
骨が長くなることができません。
そうそう、首の長さについては
人間だったら、首の骨の数は決まっていますので、
首や肩回りの筋肉の付き方に大きく影響されます。
筋肉の付き方とは、
体の使い方、つまり正しいレッスンやエクササイズに影響されます。
いくら努力しても、頸椎は増えませんのでご了承ください。
バレエ向きの体が存在するなら
多くの人たちが長いエピソードが好きだとインスタで教えてくれたからといっても、
今日のエピソードは長くなりましたよね。
そろそろまとめていきましょう。
もし、バレエ向きの体というものが存在するとしたら、
- 動くことが出来る健康な体
となるでしょう。
もし、バレエ向きの体を作りたかったら
- しっかり食べる
- しっかり寝る
- 健康でいる
という努力が必要でしょう。
でも多くの人たちが考える「バレエ向きの体」
という考え方には当てはまらないでしょうね。
今お話した、解剖学やケガ予防、体の成長という知識を考慮していない
古いイメージの「バレエ向きの体」という言葉は、
「OLさん」という言葉と同じように、
使われるべきではない言葉なのではないでしょうか?
くれぐれも、
「あなたはバレエ向きの体じゃないんだから、もっと努力しないといけないのよ」
と言いながら
- 夜遅くまでのレッスン
- 無理やりのストレッチ
- 食事量の制限
を迫ってくる先生がいたら、
もしくは、そういう考え方があるなら
それは「バレエ向きの体」と
真逆の行動をしているということを忘れないでください。
もちろん練習は大切です。
努力も必要です。
でも努力の方向性を間違えないでくださいね。
今日のポッドキャストが、ダンサーの夢を守り、
安全なスタジオと指導を作るお手伝いが出来ますように。
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