子供の偏平足は自然なことです。
私も子供の頃、自分が偏平足だと思い、竹踏み用のプラスチックの棒がありましたが、
現在はそれは危険であると分かっています。
子供の足のアーチは10歳くらいまでに徐々に発達するものなので、
幼い頃の偏平足は問題ではなく、その指導は不要ですし、
それを理由にダンサーになれないなどと言うことは誤りです。
Transcript
こんにちは、子供の時、ずっと偏平足だと思っていた佐藤愛です。
そうだからなのか分かりませんが、うちには竹踏み用の棒みたいなのがありました。
今でも実家のどこかにあると思います。
竹踏み用の棒って分かります?
流石に竹では出来ていませんでしたけど、かまぼこみたいな形をした、
緑色の竹のように節がついているプラスチックの棒で、
マッサージ用の凸凹がついていました。
時は経て、体のことを勉強しました現在の私が分かっていることは
- 子供の場合、偏平足で当たり前
- 足裏マッサージのやり過ぎは危険
- 偏平足、フラットアーチは統一されたルールがないため何センチ以下だったら偏平足という世界的な共通点がない
ということ。
なので、ダンサーの足セミナーや、
ひざ下にフォーカスを当てて勉強する「教師の為のバレエ解剖学講座モジュール4」では
小さい子達のクラスで、
土踏まず持ち上げて
アーチを引き上げて
などの言葉をかけることが出来ない、と何度もお話しています。
存在しないんでね、アーチ自体が。
ないものを要求しても出来ないでしょ。
最近のポッドキャスト「エピソード513 トウシューズは12歳から」でも
- 子供の股関節、つまり骨盤や大腿骨はまだ骨がくっついていないという事実
- 痛いと感じると筋肉は固くなること
- 痛いのが当たり前と指導すると、彼らはケガしたことに気づかず、一生を過ごす可能性があること
を知らず、2024年にまだこのような野蛮な事を行うスタジオが存在します。
とお話しましたが、
- つま先伸ばすストレッチします!
- 子供のうちに伸びるつま先を作ります!
みたいなことをやっている人達の何パーセントが、
子供のうちは偏平足が普通だという解剖学事実をご存じなんでしょうかね。
時々、生まれたての赤ちゃんで、
まだ歩くことはもちろん、ハイハイすら出来ないような子供のつま先を伸ばして
将来バレエが出来るように!なんて言ってつま先を押している人を見ると
無知とは恐ろしいものだと感じます。
こういうバレエママ、っていうの?
ステージペアレントっていうの?
そういう人達は日本だけじゃなく、オーストラリアでも会ったことがありますが、
「日本人だからつま先が伸びないんだ」
「日本人の骨格ではターンアウト出来ない」
という情報が飛び交っている場合、
危機感からか、親の愛情なのか分かりませんが、
いち早くストレッチを始める人達が多いように思われます。
日本と韓国は、人口のほとんどが同じ人種だという事もあり、
このような「日本人だから」的な考え方が通じる文化があるようですが、
オーストラリアをはじめ多民族国家の場合、
「オーストラリア人だからつま先伸びない」なんて言ったら
倫理的・政治的に大変なことになります。
オーストラリア人とは誰を指すのかを考え始めると、
先住民に対する悲惨な歴史を振り返らなければいけないですし、
その歴史から来る、現在の問題にも直面する事になります。
先週のポッドキャストでもお話しましたが、
人種差別はバレエ界にも根強く残っているので
オーストラリアの先住民・アボリジニ初のクラシックバレエダンサー
エラ・ハベルカさんは2016年にオーストラリアバレエ団に入団したそうですし、
有名なミスティ・コープランドさんが
黒人ダンサー初のプリンシパルに昇格できたのは2015年。
まだまだバレエ界は閉鎖的です。
よって、残念ながら海外の先生から「日本人だから出来ない」と言われた場合、
解剖学的な要素ではなく、人種差別が含まれていることがほとんどです。
日本人プリンシパルが踊っているオーストラリアバレエ団でさえ、
付属の学校の先生が「日本人だからターンアウト出来ない」と
知り合いの日本人の先生に言った事がある、という話を聞きました。
これは聞いた話なので真偽は分かりませんが、
20年オーストラリアに住んでいる私は、本当だとしても、全く驚きません。
でも、自分の国で生活していると、マジョリティのため、
自分が差別されるなんて思えないような日本の先生が
海外の有名学校の先生の言葉を聞いて、
解剖学的な事実なのかを確認せずに、生徒に言うようになってしまったら
とても悲しいなと思うのです。
さ、話を偏平足に戻しましょう。
昔、ランニングシューズの会社・アシックスのウェブサイトに、
とても分かりやすい足のアーチと脚の形を年齢別に表した図があったので、
セミナーでも頻繁に引用させて頂いていたのですが、
最近サイトがアップデートされて、そのイラストを見ることが出来なくなってしまいました。
そのため、エビデンスの中でもレベルの高い「システマティックレビュー」で、
日本人を含め人種も考慮されていたリサーチ文献から
出来る限りかみ砕いて、ダンサーに必要な情報だけをお話していきたいと思います。
文献には
「正常に発育している小児は、生まれつき扁平足であり、
生後10年くらいまでに徐々に内側縦アーチが発達することが臨床的に認められています」
と書いてあります。
つまり、赤ちゃんは偏平足。
日本でよくバレエスタートの年齢にあげられる3歳でも、まだ偏平足。
そこから10歳くらいまでの間に、徐々に足の内側縦アーチが発達していくんですね。
足のアーチは縦2つ・横1つの合計3つあって、
縦アーチは、
- 親指の付け根から、かかとの方にあるアーチ
- 小指の付け根から、かかとの方にあるアーチ
の2つがあります。
なので、この文献で言われているアーチは、
土踏まずの部分を指すんですね。
幼稚園生クラスから、小学校低学年クラスまでは、
大人の様に、土踏まずが形成されていないというということ。
なので、ポッドキャストの最初にお話したように、
子供クラスで
アーチを持ち上げて!
アーチを潰さないで!
は意味がない言葉になるって分かりますよね?
また、この子達の年齢で、
貴方は偏平足だからダンサーになれない
偏平足だからつま先が伸びない
なんて言うことも出来ませんし、
偏平足だから太る・足が太くなる
なんてこともありません。
この部分は年齢に関係なくデータなんてありませんよ。
データを持っている人は是非教えてください。
私が知っている限りでは、
最初にお話したように、「偏平足」は世界で一致した診断方法がないので。
O脚とかX脚とかもそうですが、
なんでもかんでも「太る」に繋げるの辞めてほしいですよね。
ただ、10歳になったら「足、出来上がりました!」ではありません。
「7歳から10歳までに足底アーチの高さが完全に成熟するわけではなく、
その後も徐々に変化していく可能性がある。」
とも書いてありました。
身長が伸びるスピードがその子によって違うのと同じように、
足のアーチの成長も個人差がありますし、
- 健康なアーチの高さ
- ダンサーに向かないアーチの低さ
なども分からないわけですね。
足の長さの成長が止まる時期
つまりシューズのサイズがある程度決まってくる年齢は
- 男の子が15.58歳 (±1.26年)
- 女の子が13.56歳 (±1.17年)
であると示唆されている研究があるそうですが、
「一般的に、足の成長に関わる骨端線は、16歳までにくっつくと言われる。」
とも書いてありましたので、
トウシューズを12歳未満でスタートしているスタジオでは、
この部分も考慮していないとなります。
もちろん、12歳になったからといって、骨が完全に出来上がったわけではないですが、
「12歳未満だったら危ないっしょ」という結論に至った理由も見えますよね。
もちろん、ダンサー自身がこの知識がなくて当たり前です。
「私の足はまだ成長していないから」って9歳の子が分かるわけがないですよね。
だから、ダンサーは周りの大人が言った事を信じています。
私が偏平足だと思っていたように。
そして竹踏みすれば、アーチが出来ると思っていたように。
保護者も分からないことがあるでしょう。
先生だって、今日お話したような文献を読む時間なんてないでしょう。
指導者になるためのシラバスを勉強した20,21歳の時の私も知りませんでしたから。
だからこそ、若いダンサーを守るためには、継続した勉強が必要なんですよね。
「知らない事は指導出来ない」
という言葉を私は何度も使いますが、
バレエの先生だからって、つま先の成長について知らない人もいる。
シラバスを勉強しても、つま先を伸ばす方法は書いていない。
だって、そもそもレッスンというものは、つま先を伸ばす練習を指すのだから。
つま先が伸びた人がレッスンするのではなくて、
つま先が伸びるようにレッスンに参加するのよ。
だからこそ、特に成長期の体を扱う人達は、
つま先を押すとか、開脚させるとかする前に、
その動きに危険がないかを考える必要があると私は思います。
まとめてみましょう。
- 幼稚園生だったら偏平足で大丈夫
- 小さい子供達、特に10歳以下ならアーチも成長過程
- 骨が出来上がっていない時に、無理につま先を押したり、アーチをプッシュしない
そしてやっぱり
- 12歳未満のトウシューズは辞めようよ
というのが、今日のポッドキャストでした。
今日の情報が、皆さんのダンス生活のお役に立てていたら嬉しいです。
ぜひ必要な人、生徒さんや保護者さんに
このポッドキャストをシェアしてあげてくださいね。
大人たちが、子供たちの体と夢を守ってあげましょうよ。
大人バレエの皆様も、先生に教えてあげてくださいませ。
一緒に安全なバレエスタジオを作っていきましょう。
ご存じのように、来週8月1日でDLSは11周年を迎えます。
現在、DLS誕生祭として、
- ダンサー専門の管理栄養士さんによる「ダンサーの食事」ワークショップ動画
- RADとワガノワメソッドプロをお呼びした、シラバス比較のディスカッション対談
- 保護者が知っておきたい成長期の体 パート1&2
のお申込が行われています。
詳細は、DLSサイトへ。
クラスの申込リンクが見つからない場合は、お気軽にインスタでDMくださいね。
より多くのバレエ関係者にダンス医学の情報を知ってもらう事で、
不必要にケガするダンサーを減らせることが、私のゴールです。
応援、どうぞよろしくお願いいたします。
では来週11歳になったDLSの、ポッドキャストでお話出来るのを楽しみにしています。
Happy Dancing!