科学的に有効性が証明されている「イメトレ」をバレエの上達に役立てる方法を解説します!
ケガでレッスンを受けられない時や、移動中でも実践できるイメトレは、ダンサーにとって大きな武器になります!
解剖学を活用した指導で、生徒をレッスン外でもサポートする方法もご紹介。
根拠に基づいたアプローチで、無理のない上達を目指しませんか?
Transcript
日本にいた時、週末は2時間以上かけて、遠方のスタジオにレッスンを受けに行っていた佐藤愛です。
地元のスタジオだけでなく、土曜日に電車にのって2時間以上かかるスタジオへ行き、
オープンクラスで選抜された6人だけでレッスンを受けていました。
その後は電車で1時間くらいの東京に住む祖母の家に泊まり、
日曜日はそこから数十分でいける東京で、朝に行われるオープンレッスンを受けてから
千葉の実家にもどっていたものです。
電車にのる時間が長かったけど、ほとんど寝ていたと思います。
本を読むのは好きだったけど、車酔いが激しかったので電車の中では無理。
なので、MDって知ってる?
CDより小さなやつ、あれに好きな音楽を入れたミックステープを作って聞いていましたね。
いまでこそ移動中はポッドキャストを聞くことが出来ますが、
当時はスマホなかったからね。
当時、週末特別に受けていた先生が、チャリティーイベントか何かに小作品を出すことになりまして、
そこにいたみんながバリエーションを1つずつ踊るのと、
みんなで一緒にオープニングとフィナーレをちょっと踊ったんですね。
私は、キトリの3幕のバリエーションを踊りました。
地元のスタジオは、レッスンが夜遅くに行われるため、レッスン後に残って自主練とはいかなかったし、
高校の勉強も、一応やってた部活もあったので忙しい毎日。
そのため、バリエーションが決まってからは、
長い電車の中でずっとどうやって踊るかを考えながら、曲を聞いていたんです。
その結果、最初のリハーサルで、
先生に「愛ちゃん、この振付踊ったことあるの?」と言われたくらい、
身体的な練習なしでも、踊れるようになりました。
当時もそうだし、留学中もそうだったけど、
先生に褒められるってほとんどないじゃない?
だから、とっても記憶に残っています。
上手に踊れたとか、テクニックが素晴らしいとかで褒められたわけではないですよ。
ただ、踊りに慣れてるって意味だったんだと思います。
でも、褒められたことには変わりない!
今でも、心に残っているエピソードです。
イメトレとスポーツ
正式にはイメジェリーと言われますが、分かりやすい日本語は「イメトレ」となるこのテクニックは、
スポーツの世界ではかなり研究もされていて、トレーニングが取り入れられています。
1990年から現在に至るまで、数多くの研究が
「イメージトレーニングを続けることで、自分がどのように動いているのかを
より鮮明にイメージできるようになり、運動能力の向上に繋がる」
ということを立証しています。
(詳細はhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9415613/)
2012年に出された「Motor imagery and sport performance」という論文には、
「70~90%のアスリートが、運動イメージトレーニングを定期的に行うことで、
運動パフォーマンスが格段に向上した」
と書いてあります。
これらの情報から、イメージする”トレーニング”を行うことで、バレエ上達につながる。
ということが分かってもらえたでしょうか?
そう、レッスン「だけ」が上達する方法ではないの。
特に今ケガしているダンサーが、このポッドキャストを聞いてくれていたら、
ケガを悪化させなくても、焦らなくても、イメージすることで上達につながるということを知ってほしい。
先生たちが聞いていたら、リハーサルで何度も何度も繰り返すより、
生徒たちに座ってもらい、音楽を聞かせたり、リハの動画を見返したりして、
どうやって踊りたいか? をイメージすることも、大切な練習の一つだってことを知ってほしい。
そして、最初にお話した私の経験談は、多分このようなイメトレの効果だったのだと思います。
当時の私は、理論的に理解した上でやっていたわけではないですけどね。
留学する前にこのことを知っていたら、留学中、ケガしてレッスンを見学していた私は、
ちゃんとリハビリをしつつ、正しく踊れる体を作るトレーニングしているうえで、
レッスンのイメトレをすることが出来たと思うんですけどね。
ご存じのように、そんな知識がなかった18歳の愛ちゃんは、
床に座ってぼーっとレッスンを見ているか、
何もできない自分に腹が立って、毎日無気力に生きていたか、
努力の1つだと思って、頑張ってストレッチに励んでいたか、という生活を送っていましたが…
レッスンだけでは上達しない
2025年1回目のポッドキャストでも、先週のエピソードでも、
様々なエビデンスを使って、レッスンだけでは足りないという事実をお話してきました。
週に7日、レッスンを休まず続けて、夜遅くまで自主練すれば上手になれるわけではないのです。
週に4回でも集中してレッスンし、週に1-2回はダンサーに必要なエクササイズを行う。
こっちの方が、理論的に上達します。
しかも、ダンサーに見られる70%以上のケガが慢性のオーバーユーズのケガだということを考えると、
こうやってトレーニング内容を分けることで、ケガのチャンスも減らせます。
そうは言っても、フルタイムのバレエ留学を考えているから、休みたくない!という子たちは、
それに追加してコンテに慣れておきたいし、体力づくりのために有酸素運動を1つ取り入れるのも大切だと思います。
もちろん、英会話のレッスンも受けておきましょう。
でもね、今日のポッドキャストでお話したように、
サイエンスを見てみると、イメトレのような体を動かさない練習でも、上達は可能なのです。
ただ、イメージトレーニングという通り、トレーニングですから、
携帯スクロールしながら、つまみ食いしながら、後ろでテレビの音がしているリビングで…では無理ですよ。
体を動かさないといっても、練習であることには変わりありません。
ただ、場所をとらずに、比較的疲れずに出来るイメトレは、
先ほど私の例でお話したように、電車の中のような、移動中、
場所があまりない舞台裏、体調不良でお休みしている時などでも出来るということ。
知っておいて損はないでしょう?
イメトレを成功させるコツ
では、どうやってイメトレをすべきか?
エクササイズと同様、様々な方法があるようですが、すべてに共通している点は
- より正確に、行いたい動きをイメージする
- ポジティブ、つまり成功する方へのイメージをする
という2つです。
私の例をとってこの2つの点を考えてみましょう。
キトリの3幕のバリエーションをイメトレするためには、
私自身が正確に、振付、音の取り方、顔の方向を理解している必要があります。
エシャッペの後、すぐに後ろを向いてアチチュードターンに入るのか、
顔はお客さんの方に残しておいて回転が始まったら顔のスポットを付けるのか
が明確に分かっていなければ、イメトレすることが出来ません。
また、効果的なイメトレのためには、成功する方のイメージをしなければいけません。
スタートの5番ポジションルルベからアラベスクにした際に、ぴたっととまったイメージを持ちたいし、
グランパドシャの後のルティレの2回目では、余韻を残して、音をちょっと引っ張っている感じ。
これらがクリアに、鮮明にイメージ出来る必要があるってことね。
バリエーションの場合は、今のように振付を考えることが出来るけど、
普段のレッスンではアンシェヌマンが決まっているわけではありません。
こういう場合もイメトレは使えるか?
答えはYES!
舞台、試合のためのイメトレだけでなく、運動動作を正確に考えることができれば、
テクニックも向上します。
そのために役に立つのが解剖学。
使いたい筋肉の場所がイメージできたら
動かしたい骨が、動かしたい方向にイメージ出来たら。
たとえ体を動かしていなかったとしても、脳内では練習をしていることになります。
ターンアウトを例にとってみると
ターンアウトで使いたい筋肉をクリアにイメージ出来て、
使いたくない筋肉を緩める感覚が作られて
股関節のソケット部分で、大腿骨がスムーズに、痛みなく外旋するイメージをもつこと。
つま先を伸ばすことを例にとってみると
かかと、親指、小指の付け根の3点がよってくるイメージがあり、
その先にある趾が、遠くに強く伸ばされている感覚をもつこと。
このようにテクニック上達にもイメトレが使えるし、
正確な振付が分かっていたら、正しくイメトレが出来るのと同じように、
正確な体の動かし方が分かっていたら、バレエの基礎も上達します。
バレエ解剖学を取り入れた指導法
イメトレはダンサーだけの話ではありません。
先生たちだって、指導中の注意に解剖学の言葉を使うことで、
生徒たちが正しい動きをクリアに理解できるようすることが出来ます。
そうすると、同じ注意の数でも、生徒の上達は早くなるってわけ。
例えば、「肩を下げて」というよくわからない注意の代わりに
「鎖骨を床と平行に保って」ということで
生徒たちも、鏡で何を見たらいいのか、どのように努力すればいいのかが見えてきます。
もちろん、センターで順番待ちをしている子たちも、
アンシェヌマンは踊ってはいないかもしれませんが、
鎖骨が横に引っ張られたままで2番ポジションからブラバーに下げる腕をイメージすることが出来るでしょう。
先生たちが解剖学を勉強する理由はたくさんあります。
今月のポッドキャストだけを使っても
- 時代と共に変わっているテクニックについていくために、体の構造を理解すること(エピソード542)
- 情報過多の時代に、自分で情報を判断し、知識を身につけるため(エピソード543)
- バレエレッスンだけでは現代のダンサーに必要な筋力、体力が育たたないため、安全な体の使い方を理解するため(エピソード544)
が挙げられますが、
今日のエピソードでは、それに追加して
- 生徒たちによりよい注意を与えることで、彼らがレッスンの外でもイメトレ出来るツールを渡すこと
というのも入れてみてください。
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感覚ではなく、理論的に。
昭和の努力ではなく、エビデンスベースで正しい方向へ努力したい
ダンサーとバレエの先生方へのクラスでお会いできるのを楽しみにしております。
今年こそ、一緒に科学的根拠と共に上達しちゃいましょうね。
Happy Dancing!
佐藤愛