DLSポッドキャスト epi565 バリエーションを練習しても上達しない理由

「たくさん練習すれば、きっと上達する」

そう信じて毎日バリエーションの練習に励んでいるのに、なぜか思ったほど変化がない…?

このエピソードでは、成長期の身体が抱える特徴と、

振付練習だけに頼るリスクをエビデンスと共に紐解いていきます。

バレエ上達のために、今本当に必要な練習とは何か?を一緒に考えてみましょう。

Transcript

初めてバレエコンクールで踊ったバリエーションは、

リラの精のバリエーションだった佐藤愛です。

本当は、オーロラ姫の3幕のバリエーションがよかったんだけど、

先生から、リラの精にしなさい、と言われました。

理由は聞かなかった気がします。ただ、はい、と言って終わりでした。

でもさ、コンクール映えする振付ではないんですよね、あれ。

そう気づいたのは、埼玉舞踊コンクールの予選会場。

1分以下でバリエーションを切らなければいけなかったんだけど、

私はみんな、最初の1分を踊るのかと思っていたら、

一番目立つところを1分カットしている人たちが多くて。

こうやってコンクールに出るんだ!と思ったのを覚えています。

今考えればラッキーなことに、私はコンクール畑で育ちませんでした。

夏はバレエ講習会に参加していた組だったの。

もちろん、私が日本で踊っていたときは、

今のように、毎週末日本のどこかでコンクールが行われているという

奇妙な光景は見られなかったので

それもラッキーだったんだと思います。

もちろん、私のバレエ留学はコンクールではなくオーデションでした。

今でも思いますが、オーデションのほうが

うまくいく確率が高いとも思いますし、

ディレクターとのコネクションも生まれると思います。

だって、日本で行われているバレエコンクールの入学許可というのは、

時々バレエ学校側はその子の踊りを見ないこともあるんですから。

なんでそうやって言い切ることができるかって?

知っているからですよ、バレエ学校で働いていたとき、

学校のオーデション通訳等もしていましたし、

その会場にコンクール関係者が来て、

校長先生にコンクールのサポーターになってくれないか?

なんてミーティングをしている席にも同席していましたから。

バレエダンサーでもなく、バレエ学校関係者でもなく、先生でもなく。

ただ、有名なバレエ団のダンサーたちの多くをクライアントに持つ人が

コンクールのジャッジに招かれているのも知っています。

その人が、何を基準にして将来のダンサーを選んでいるのか、

私にはまったくわかりません。

なーんて、今日のテーマはコンクールの裏話ではありません。

でもね、いっぱい知ってるよ!

じゃ、今日のポッドキャストでは何を話すのか?

今月は保護者向けの情報発信をしていますが、

今日は保護者が知っておきたい、バレエ上達について。

特に、バリエーションをたくさん練習しても、上達しない

という事実についてお話していきたいと思います。

バリエーションとは何か?

まず、バリエーションとは何か?の定義をしていきましょう。

英語圏では、バリエーションと言われることは少なく、「ソロ」と言われます。

その言葉の意味通り、1人で踊る踊りで、

全幕バレエの場合は、ソリスト以上のダンサーだけに与えられる見せ場、となります。

見せ場なので、難しいテクニックがふんだんに含まれているのが特徴ですね。

その代わり、バリエーションは短いです。

1分ー3分くらいが相場だと思いますが、

全幕バレエが2-3時間だとすると、その中のちょっとだけ、という感じですね。

覚えておいてほしいことは、

バリエーションは、ソリスト以上のダンサーが踊るということ。

つまり、バレエ学校を経て、バレエ団に入って、

何年もバレエ団で活躍しているダンサーの中には、

引退までの間、バリエーションを舞台で踊ることがない人も存在するという事実です。

とはいっても、先ほどお話したように、

難しいテクニックがふんだんに含まれているので、

そのダンサーの力量を見やすいから、コンクールはもちろん、

オーデションビデオでも使われるんでしょう。

オーデションビデオを制作する際に、

クラシック、コンテともにバリエーションを1-2個入れておくのが通常だと思いますが、

選択した振付のふり幅が広ければ広いほど、

ダンサーとしての様々な角度をショーケースすることができるけど、

自分の得意な踊りを見せたい、という気持ちもあるので、

選曲が難しいんですよねー。

バリエーションが好かれる理由

日本では、コンクールだけでなく、発表会でもバリエーションを踊ることが多いでしょう。

ほら、小作品、なんて名前にして、みんなが別々のバリエーションを踊る。

これは、一番安い舞台づくりになります。

だって1幕だけ抜粋します、としたとしても、舞台装置は必要だし、

小道具もいるし、何より、多くのダンサーが必要です。

もちろん、発表会に見に来るのは、ほとんどが家族、親戚なので、

自分の子供が分かりやすい、小作品はお客さんも好きだと思います。

うちの父は、毎回発表会に来てはくれていましたが、

みんなが同じ衣装、同じ髪型、同じメイクだと、自分の娘が分からなかったそうです。

しかも、発表会で練習してあるから、

コンクールに回しやすいというのもあるんでしょうね。

”舞台慣れ”としてや、”再挑戦”という意味でも。

学生ダンサー、つまりアマチュアダンサーに”舞台慣れ”が必要か、私はわかりません。

個人的には、不要だと思いますが、今日のテーマじゃないので飛ばしていきましょう。

生の舞台を”再挑戦”する理由や、意図もよくわかりません。

次があるからいいや、って思う原因になるんじゃないの?なんて思ってしまいますが、

ここは、ダンサーと先生がどういうインテンションで

舞台に向けて練習するのかにかかってくるので、

数年後、テクニックも作品理解も増えてリベンジ!というのはアリかもね。

バリエーションをたくさん練習するメリット

前置きはこれくらいにして、今日のポッドキャストテーマ

「バリエーションを練習しても上達しない理由」について深く見ていきましょう。

あのね、バリエーションを練習しちゃダメ!とは言っていないからね。

練習不足はケガの原因になるのは事実ですから。

でも、バリエーションを何度も、何度も通して練習しても、

何足ものポワントシューズを潰しても、

今年1年はこのバリエーションでコンクールや発表会に挑戦する!と決めても

皆さんが思うような、上達は見られないってこと。

バリエーションだけでなく、1つの動きを練習すると、

最初は大幅な学びがあります。

簡単に自転車を例にとってお話してみましょう。

自転車にすぐには乗れないですよね?

バランス感覚や、コーディネーション、ハンドルを切るスピード、ブレーキの使い方…

自転車をこぐのに必要な筋力、体力が足りていない人もいるかもしれません。

そして、これらは練習しなければ、身に付きません。

これらの”技術”が身に付いたら、ちょっと余裕が生まれます。

例えば、肩の力を抜いて、景色を楽しむとか

後ろから来る車に気を付けることができるとか、

路地から飛び出してきた子供がいたとしても、急ブレーキをかけることができる。

これらは、安全に自転車に乗るために必要ですし、

サイクリングを楽しむためにも大切です。

でも、この段階になったら、”技術”は成長していません。

”技術”が身についているから、余裕ができているというだけ。

これがね、バリエーションの練習、つまりリハーサルなの。

新しい振付を学ぶって、身体的な部分だけでなく、

精神的な部分、記憶や集中力もたくさん使用します。

新しいコンビネーションを学ぶとなれば、

今まで以上に筋力、体力、コーディネーション力が必要になってくるでしょう。

振付が体に入ってくると、さっきお話したような余裕が生まれます。

そうすれば、表現する余裕が生まれるし、踊りを楽しむこともできるし、

パートナーとのタイミングがうまくいかなかったとか、回転で失敗した、

なんて時も対応することが可能なはずです。

安全に踊るには、こうやって練習をして、振付を体に入れる、

言葉通り、神経回路、運動神経、必要な筋力、体力など

身体的な部分がアダプトする必要があります。

バリエーションをたくさん練習するデメリット

今の説明だけ聞いていたら、

「バリエーションを練習すればするほど、上達するんじゃないか?」

と思いますよね。

でもね、世の中のほとんどの研究と同じように、

グラフは常に右肩上がりではないんですよ。

さっきお話した、「余裕が生まれる」部分に到達した理由は、

体が新しい動き、自転車を漕ぐとか、新しいバリエーションとか、

一番省エネでできる方法を身につけたということになります。

脳みそが一番エネルギーを使いますから、

曲を聞いたら、勝手に体が動くようになっていると楽なのよ。

自転車にまたがったら、考えなくても漕ぎ始められるのと同じように。

そりゃバリエーションの息が上がらないで踊れるようになるとか、

全然エネルギーを使わなくて済む、というわけではないですよ。

その動きを行うにあたって、一番省エネな方法を学んだということだけだから。

もし、バリエーションを繰り返し練習する理由が、

体力維持だったら問題ないという見方もできるかも。

でも運動不足解消や体力維持が必要な人が、

プロアスリートレベルのプリンシパルの振付をこなし、体力維持したとしても、

ケガのリスクは非常に高いと思われるため、やっぱり良くわからない行動になっちゃいますね。

道路では、舞台の上では、省エネで動くことは非常に大切です。

でも、バレエの”上達”という面では問題です。

バリエーションに慣れたからといって、

普段のレッスンで使う筋肉たちが上達しているわけではありません。

ターンアウトを強化できるわけでもありません。

なぜかというと、筋肉を作るというのは、体にとって多くのエネルギーが必要だからです。

しかも、使っていない筋肉を保つのも無駄なエネルギーだと考えられるため、

バリエーションに入っていない動きに必要な筋肉たちは、消されていきます。

さっきもお話したように、動きに慣れたということは、

一番省エネに行う方法が分かったということだからね。

でも、全身使って踊ってるから、不要な筋肉なんてないんじゃない?って思いますよね、

考えてみてください。

バリエーションとは、もともとダンサーの見せ場なんです。

つまり、得意な動きや得意な方向「だけ」が入っています。

右のピルエットはあっても、左は入っていない。

左右、前後均等に足を上げたり、バランスをとるわけではない。

しかも、舞台の使い方という面でも、ほぼ同じ動線を通ります。

  1. 横への移動
  2. 観客側から見て、舞台の右端前から左端後ろに向かう斜め
  3. 右後ろから左前に向けての斜め
  4. マネージは常に右まわり
  1. 振付に含まれていない方向、動きは上達しないだけでなく、下手になる
  2. 振付に含まれている動きは、一番省エネで行うため、筋肉やコーディネーション力などが育ち続けるわけではない

どう? 思ったような上達が見られない可能性があるって気づいてくれた?

バレエの基礎はどうなった?

残念ながら、それ以外にもダンサーや先生はもちろん、

保護者が知っておきたいバリエーションについての事実があります。

それは、バリエーションの振付は、アカデミックバレエではないということ。

つまり、基礎ではないんです。

基礎ができた人が、役に合わせて、テクニックを見せつける場所。

それがバリエーションでしたよね?

バリエーションで使われるポーデブラは基本のポジションではないことが多々あります。

キャラクター的な腕の動きが多いので。

上半身の使い方も、舞台では高いところに観客がいることが多いため、

通常の立ち方よりも、肋骨を前に押し出し、解剖学的には少し伸展、

つまり胸椎をそらせて踊ります。

もちろん、それらは踊り方なので、間違った使い方だー!と言っているわけではありません。

でも、さっき私が「使わない筋肉はなくなっていく」とお話したじゃない?

長くバリエーション「だけ」練習していたり、

基礎レッスンを飛ばして発表会の練習、という名目のもとリハーサルを繰り返すと、

正しい立ち方や、基本の腕の使い方に必要な筋肉が育たないだけでなく、

失われていく可能性もあるのです。

そりゃ、3日で全部消えちゃうわけではないですよ?

でもまだ基礎が身についていない子だったら、

バリエーションの練習が終わって、通常レッスンに戻ってきたら

  1. 片方のアラベスクは上がるけど、左右差が大きくなって
  2. 右の回転は2回転できるけど、左は1回転も怪しくて
  3. ポーデブラや上体の使い方に癖がつき、
  4. 通常レッスンのアンシェヌマンを覚える能力も低下している

としたら、悲しいと思うんです。

だって、この基礎レッスンが、オーデションや国際コンクールでは予選となる部分なんで。

成長期ダンサーが知っておきたいバリエーション練習のケガリスク

ごめんね、まだまだ考えてほしいことがあります。

プロダンサー、特に主役として舞台を引っ張るだけの力がある人たち用に

見せ場というゴールのもと作られたバリエーションは、

体に大きな負担がかかります。

  1. 大きなジャンプの繰り返し
  2. 同じ方向に、何度も上げ続ける脚
  3. 同じ軸足から繰り出されるステップ…

これらはプロダンサーでも大変なので、結果「見せ場」となるわけでしょう?

なので、成長期の子供たちの体には大きな負荷がかかっていることを忘れないでください。

ただでさえ、成長期には一時的に

  1. 柔軟性
  2. 筋力
  3. コーディネーション力
  4. バランス

が落ちます。

組織の成長の順番というものが関係するので、

これは、練習すれば超えられる壁ではありません。

人間として、成長のステップです。

この時期のケガのリスクが高くなることは、バレエだけでなく、スポーツでも

幅広く知られている事実ですよね?

大人で、プロでも大変な動きを

体が成長中で、関節や骨などの組織が出来上がっていない子供で

しかも、ケガのリスクが高くなる年齢に行っているということ。

やめろ!と言っているわけではないですが、

知らないことは防げないでしょう?

知識がなければ、

  1. プロになりたい!という夢を応援するため
  2. 上手になりたい!という気持ちをサポートするため

の行動が、真逆の効果があることが分からないじゃない?

保護者もバレエについて勉強しよう

今日のポッドキャストでは、

プロダンサーがバリエーション練習をしているのを注意しているわけではないですからね!

プロダンサーは仕事が舞台で踊ることです。

同じ仕事だったら、もちろん省エネで踊る方が必要でしょう!

シーズン中、次のシーズンのリハーサルを行っている事もあるし、

ツアー中のこともあるし、何週間も公演が続く場合もあります。

彼らの身体年齢は成人ですし、カンパニーに入っているんだから、

テクニックもちゃんと身についている事でしょう。

有名どころのスタジオ出身とか、脚の形と、細い体だけで選ばれていなければ…

その場合は、カンパニーの問題であり、ダンサーの問題ではありません。

ただ、子供達は大人のミニチュアバージョンではありません。

彼らに必要なことと、プロダンサーに必要なことは異なります。

そして、バレエ学校で10年以上、何度もオーディション会場に立ち会った身として

入学許可が出る為に必要なプロセスには、何が含まれているのかを現場で見てきています。

私はDLSを通じて、このようなデータや危険性、見落とされがちなポイントを

無料ブログやポッドキャストも含め、日本語で提供してきて

今年で12年目になります。

それでも、バレエの先生たちに

  1. 幼い年齢でのコンクールは見直したら?
  2. 成長期ダンサーにそんなにコンクールはいらないんじゃない?
  3. 12歳以下がポワントレッスンする必要はないよ?
  4. ダイエットは、踊れない体を作るよ?
  5. 世界のどのバレエシラバス、メソッドを見ても、床での柔軟は含まれていないよ?

と伝え続けても、

  1. こうしないと、保護者がほかのスタジオに生徒を送っちゃうんです
  2. 保護者がスタジオをやめると言ってきます

と言われます。

この前終わった、DLS公認スタンスインストラクターコースのお申込みでも、

DLSを知っていて、安全な指導をしたいから、10か月コースに申し込みたいです!という人でも

体型についてやポワント年齢を変えたくないから、

コース申し込みを却下しますという人たちもいました。

だからね、保護者に知ってもらいたい。

自分の子供を守れるのは、名前通り、保護者である皆さんだから。

バレエシラバスを勉強してほしいとか、

解剖学を勉強してほしいというわけではないです。

おうちでエクササイズを指導してほしいなんてこともありません。

ただ、今月のポッドキャストでお話しているような

  1. 体型の変化と成長
  2. 痩せていないとバレエができないという誤解
  3. おうちでの言葉遣いの大切さ

そして今回の、スタジオで行われている練習の質を知っているだけで

今のスタジオで良いのかなとか

先生に一言伝えたほうが良いのかな、

など考えることができるはずです。

先生たちが口を揃えて言う

「そうはいっても、保護者の方が求めるので」というのが事実かどうか、私にはわかりません。

ただ、保護者からいただくDMでは「そうはいっても、先生が求めるので」です。

誰も「子供のために一番を」という言葉ではないことが残念ですが、

先生も、生徒も、そして保護者も、それぞれ知識をアップさせることが、

最終的に、次世代のダンサーの安全と健康を守る方法なんじゃないかな、って思います。

保護者が知っておきたい成長期の体」オンデマンドセミナーでは、

このような、親として知っておきたい体の話とバレエの話を混ぜ合わせて

お家でできること、すぐに変えられることにフォーカスしてお伝えしています。

子供のために、もっと勉強したい!と思ってくださったら、

DLSサイトで「保護者が知っておきたい成長期の体」と検索してみてくださいね。

見つからなかったら、インスタ@dancerslifesupportにDMください。

Happy Dancing!

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