DLSポッドキャスト epi564 ローザンヌ国際バレエコンクールと体型

「バレエをやるなら細くないと」そんな考えがまだ残る中で、成長期の子どもとどう向き合う?

保護者としての役割や、本当の応援とは何か、一緒に考えてみませんか?

成長期の体と心に対する理解を深め、健康的なサポート方法を探ります。

Transcript

つい先日、40歳になった佐藤愛です!

18でメルボルンにバレエ留学し、20代半ばでDLSをスタートし、

あっという間に40歳になりました。

昔は40歳というと、お姉さんとおばあちゃんベクトルの、

おばあちゃんに近い方だと思っていたのね。

でも、実際に40になってみると、人生のちょうど中間地点なわけで。

もし、いままでの人生で、単身海外生活から、自分の事業を確立することから、

私の書いた本がチャコットなどバレエショップに並ぶのが

普通になるところまで来れたとしたら、

この先同じだけの時間に、何が達成できるようになるんだろう!

そう思うだけで、ドキドキというか、恐怖とは違うけど、

可能性の広さに恐れ戦くとでも言うのでしょうかね、不思議な気持ちになります。

同時に、同級生の中にはこの年まで到達出来なかった人達もいます。

昔は、踊れなかったら意味がない!

痩せてなかったら価値がない!

と思っていたのに、今では年を取るって、全員に渡されるチケットではなくて、

治安のよいところで、生きていられて、動ける体があるって、

どれだけラッキーなことなんだろうと思います。

その上で、自分の好きな事を仕事にして、誰かの役に立つことでお金を頂くという循環。

18歳の愛ちゃんが欲しかった、体型、キャリア、キャスティングを、

全部あげるし、可愛いレオタードも10着つけるから、今の生活を交換しよう!

と言われたとしても、絶対に断りますね。

価値観とは、年齢と共に変わるってことでしょう。

当時は大好きだったサッカー部の先輩も、ウチワを買ったアイドルも、

朝長ーい時間をかけてセットした前髪も、そんなに大事じゃないと気づくんですよね。

さて、先週のポッドキャストでは、バレエが大好きだ!って言っているのに

成長期に太ってきたとしたら、それは怠けているってこと?

不真面目?努力が足りないの??

ということを、エビデンスベースで勉強してみました。

まだそちらのエピソードを聞いていない人は、

今日のエピソードの前に聞いておいた方がいいかなって思います。

宿題もあったので、そちらもやっておいてね!

先週のエピソードでは、人間の体として正常で、健康な成長期、思春期には、

女の子の体は脂肪が増えて当たり前だということと、

体型について口にすることが、子供達の人生のリスクを大幅にアップするということを

データと共にお話しましたよね?

とはいっても、

「愛さん、そうは言ってもバレエやってるんだったら、細くなきゃだめじゃないですか。

体型について注意しないと、いくら踊れても意味がないんじゃないですか?」

と思う人もいると思うから、

今週はその部分を見ていきたいと思います。

国際コンクールもバレエの為に痩せることへ反対

正常な成長過程では、成長期に脂肪が増えて当たり前で、

それは骨の強さのような身体的な部分と、集中力のような精神的な部分両方の成長、

正常な働きに必要な月経のため。

とお話した後でも、バレエやってるんだったら、細くなきゃダメか?

と考えてしまう理由には大きく分けて

1)太いとケガするリスクがあがるのではないか?

2)太いとダンサーとしてオーディションやコンクールに受からないんじゃないか?

という2つがあると思います。

ケガのリスクについては、膨大なリサーチが出ていまして、

ポッドキャストエピソード534 「オリンピック委員会も体重測定に反対」

でカバーしていますので、今日は飛ばしていきましょう。

2つめの、太いとダンサーとしてオーディションやコンクールに受からないんじゃないか?

という部分に答えるために、

ローザンヌ国際バレエコンクールのHealth Policyの一部を読んでみようと思います。

2010年にコンクール専属の医者、Dr Carlo Baguttiさんが書いた資料で、

現在でもサイトにリンクが貼ってあるため、皆さんがダウンロードして読める資料によると、

「すべての候補者は、予選ラウンドに参加する前に、

ローザンヌのコンサルティング医師によって評価されます。

これは、選ばれた場合にローザンヌの1週間の厳しい日程に耐えうる健康状態であり、

長期的・深刻な健康被害を引き起こさないことを確認するためです。

特に、神経性無食欲症(摂食障害)に苦しむダンサーを、

ローザンヌの競技週間のプレッシャーにさらさないことが重要です。」

と書いてあります。

そして、その後に

「ダンサーの栄養状態および低体重の深刻な影響を、

年齢や人種を考慮しながら効果的かつ信頼性高く評価する単一のツールは存在しません。

そのため、ローザンヌ国際バレエコンクールのコンサルティング医師は、

候補者一人ひとりがコンクールの厳しさに耐えられるかどうかを、

4つの指標を用いた評価プロセスによって判断します。」

と書いてあります。

その判断指標とは

  1. 成長曲線の確認:今までの身長・体重の伸びが正常かどうか

  2. 月経の状況(女性のみ):遅れていないか、不定期・無月経ではないか

  3. 摂食行動のチェックテスト:摂食障害の兆候がないか

  4. BMI:年齢に応じて極端に低くないか

先週のエピソードでお話したように、

月経の有無の大切さが指標に使われているのを覚えておいてくださいね。

4つ目のBMIとは身長と体重を使った指標なんですが、

何をもって「極端に低い」と判断するかというと

「15歳では16未満、18歳では17未満を「やせすぎ(Grade 2)」と分類しています。」

と明記されています。

ちなみに、資料は8ページに及ぶのですが、

一度も体重が重すぎる、体が大きすぎる、

ということが判断基準になるとは書いていないんです。

その代わり、どれだけ低体重が健康を害するか、ダンサーにとって危険か

が多くの文献へのリンクと共に書いてあります。

細いからプロになれるのか?

もちろん、ローザンヌ国際バレエコンクールが唯一プロダンサーになれる方法

だと言っているわけでもないし、

ローザンヌが、完璧なコンクールだって伝えたいわけではありません。

コンクールに出なくても、オーデション経由でプロになれる方法はあるし、

皆さんご存じのように、私はどちらかと言ったらバレエコンクールには消極的なほうです。

でも、”若手ダンサーの登竜門”なんて歌われて、

昔からテレビで放送される唯一のバレエコンクールですし、

多くの日本人ダンサーがこのコンクールを夢見ているでしょう?

先生たちも、このコンクールを見ながら振付だったり、

現在のバレエ界の動向などを見ますでしょう?

だから今回、例にとったのですが、

細いからプロになれるとは書いていないことを再度認識しましょう。

もう耳にタコかもしれないけど、出典元を確認し、エビデンスベースで判断しましょうよ。

大切な自分の、生徒の、もしくは自分の子供の健康や将来なんですから。

保護者の役目は「家庭内審査員」ではない

「愛さん、そうは言っても、子供の健康の為に体型についてや食事量について

伝えてあげるのがしつけじゃないですか?肥満だって大きな問題なんだし。」

という人もいるかもしれませんよね。

もちろん、世界的に見たら肥満は大きな問題の1つです。

専門エリアではないので、私はこれ以上お伝え出来ませんが、

統計を見てば分かることでもあります。

でも、先週のポッドキャストでお話したように、体型について親から言われると、

彼らの将来の行動が不健康になるんですよね?

そうはいっても、毎日頑張って練習しているわが子。

少しでも有利になれるように、少しでも選ばれるように…

そういった気持ちから一言出ちゃうという親御さんも多いようです。

でも、親の仕事は審査員ではありません。

日々鏡の前で自分を直視し、毎回コンクールでは周りと比べられ、

自分に足りない事ばかり、レッスンで注意される。

  1. つま先が伸びてない

  2. 肘が突っ張ってる

  3. 脚が低い

  4. ちゃんと5番ポジション!

などだけでなく

  1. あなたは首が短いんだから

  2. あなたは肩幅広いし

  3. あなたはO脚だから

なんて、衣装合わせやリハーサルの度に体型について言われ続ける。

その上で、お家に帰ってきても親から

  1. ちょっと食べ過ぎなんじゃないの?

  2. 舞台があるでしょ?

  3. 衣装合わせ明日でしょ?

なんて言われていたら、彼女の休む場所はどこになるんでしょう?

バレエの世界では、オーディション、ステージ、レッスン、常に誰かの目があります。

お家でもジャッジされていると感じたら、お家に帰ってきて話したいって思うかしら?

それとも、見られないようにごはんを急いで食べて、

ドアを閉めて会話もなくなってしまう関係になりたい?

たとえ、彼女の将来の為にと思っていても、健康を害することになってしまったら?

しかも、その時には、親子の会話はほとんどなくなっていて、

彼女のSOSに気づいてあげることが出来なかったら?

それが保護者として、求めている姿ですか?

家庭内の雰囲気ですか?

それとも、先生たちが何を言っても、

彼女の夢を誰よりも応援してあげられる関係でいたくないですか?

泣いて戻ってきても、安全な場所を提供出来る家庭でありたくないですか?

おわりに:体が成長する時期だからこそ、親のまなざしも一緒に育てよう

成長期、思春期と言われる時期は、

親から離れて社会での立ち位置をみつける時期でもあります。

彼らも自分の体や心、価値観が変わる時期で、よく分からない部分もあります。

もしかしたら、今まで大好きだったバレエも、

あと数年で他の興味が強くなる可能性もあります。

昔大好きだったぬいぐるみが埃をかぶり、

一緒に見ていたテレビも、お互いの携帯画面に変わっていくように。

そして、私が昔、喉から手が出るくらい欲しかった体型と、

今求めている生活や、基準が異なるように。

私もずーっとバレエ界の中にいるので、

まだまだ体型重視の先生が残っている事を知っています。

生徒の安全と将来の健康を第一に考えるレッスンが「当たり前」になるように、

とDLSをやっている理由は、

現在、それが当たり前ではないからです。

だからこそ、大人の私たちは、正しく情報を理解して、勉強を続けて、

そして、次世代のダンサー達を応援してあげません?

ジャッジではなく、ダメだしでなく、チアリーダーとして。

今日も最後まで聞いてくださってどうもありがとうございました。

DLS初保護者用のオンデマンドセミナー「保護者が知っておきたい成長期の体セミナー」では

このように保護者がデータと共に知っておくことで、子供達を守る方法をお伝えしています。

このクラスは既に受講したけど、食事についてもっと知っておきたい。

そう思った方はTASTEという「摂食障害からの回復を後押しする対話と学び合いの場」団体が

6月15日朝10時よりダンサーと摂食障害、というオンラインセミナーを行うそうです。

実は私もゲストで参加するので、

ボディコンサークルの直後にオンラインセミナーに参加しませんか?

詳細やお申込みは、DLSではなくTASTEに問い合わせてくださいね。

インスタグラムで「Taste.food.and.life」と検索すると出てきます。

Happy Dancing!

Subscribe and Listen

Listen on Apple

Listen on YouTube

Listen on Spotify

Share This Episode

Facebook
Twitter
LinkedIn