DLSポッドキャスト epi585 愛さんもバトル中のマインドセット

バレエ指導や練習で無意識に出る「考え方の癖」。

長時間練習が偉いなどの固定観念や、周りと比べる思い込みに気づき、

よりよく踊れる&指導できるヒントを紹介します。

Transcript

長時間仕事をする=偉いこと、まじめな証拠

という考え方があったことに、今年になってから気づいた佐藤愛です。

先週のポッドキャストでちらっとお話した考え方ですが、

未だに仕事中時計を見て

「あーまだ5時じゃないから、まだパソコンに向かわないと」と思う自分を発見します。

よくよく考えてみたら、私オフィスで働いた経験がないんですよ。

今までの職場で、”9時から5時まで”という生活をしたことがないんです。

バレエ学校で働いていたときは、

生徒たちが治療に来る時間帯は学校が終わってからがメインなので、

どのリハに出ているかによって変動はあるものの、

午後2、3時くらいから7時頃まででしたし

舞台裏で仕事をしているときは、舞台が終わる時間まで。

早く帰ったら部長に怒られるなどという生活をしたことが一度もありません。

今はDLS一本で仕事をしていますが、

私がCEOの会社ですので、いつ、どのように働いても良いわけです。

誰かに怒られるとか、時給でお給料なわけでもありません。

では、どうして未だに「9時から5時まで」という考えがあるのか?

そもそも、私の中の「9時から5時まで」という考え方はどこから来ているのか?

そして、5時以降まで仕事をしていたら、

「よく頑張った日だ!」と感じるのはどうしてなのか?

深く考えてみると、この考え方は私の両親から受け継いでいるようです。

別に、彼らに言われたわけではないですが、

子供たちは「大人が何を言ったか」ではなく

「何をしているか?」の方を見て学びます。

例えば、母の職場は2-3月が忙しく、

いつもより遅く仕事から帰ってくることがありました。

父は朝6時半には家を出て、佐藤家特有の言葉「ヨルバツ」だという場合は、

夕飯は要らず、帰ってくるのが10時を超えることが良くありました。

私は私で、学校の後に部活か勉強、

バレエが終わるのが9時半から10時、という生活だったので。

別に家で一人で寂しかった、などの記憶があるわけではないのですが、

  1. 大人とはこういう時間に働くものだ
  2. 頑張っている人は、家に帰ってくるのが遅いものだ

という考え方が深く染みついているようです。

しかもね、今年で海外生活21年目なので、

日本よりも長くオーストラリアに住んでいるのだけど

子供の時に学んだ考え方って、抜けないものですね。

私の近況や、向き合っている壁についてお話している今月のポッドキャスト、

最終回の今日は、

このような考え方の癖、問題、固定観念についてお話していきたいと思います。

考え方の癖、ありません?

踊りの癖と同じように、考え方にも癖があります。

誰かに指摘されてはじめて気づくこともあるし、

発表会の写真やビデオを見て、自分で気づくこともある癖。

ちっちゃい頃の癖はなかなか直りづらく、

ゆっくりのバーのときは大丈夫でも、

振付が難しくなってくると顔を出してくる癖。

皆さんにも、こういう考え方の癖はありません?

  1. 勉強しているから知識は頭には入っているのに、自分のレッスンやエクササイズクラス前はストレッチしている自分を発見する
  2. 自分が踊っているときは、少人数のクラスだとラッキーと思っていたのに、自分が指導し始めたら生徒数が少ないことを恥ずかしいと思ってしまう自分がいる
  3. 生徒たちには、いっぱい食べて元気に踊ろう!と言うのに、少しでも食べすぎたかもと思うと罪悪感が忍び寄ってくる
  4. 様々な体型の人が踊っていい、と分かっているのに、SNSで流れてきた動画を見て「このダンサーは細くてきれい」という考えが最初に思い浮かんできてしまう

など。

考え方の癖は子供の時の環境が大きく影響する

このポッドキャストの準備をしようと思っていた朝に、こんな質問をもらいました。

「愛さんがバレエ学校をやめるという大きい決断をする前まで、

こうではないといけないという固定観念があったと気づいたことは何かありましたか?

私はダンスサークルを運営していますが、

この後もしかしたら考え方や視野を広げて、

体制を変えていかなければいけないかもしれないので、

こんなことを思い込んでない?ということがあったら教えていただきたいです」

固定観念という言葉の定義を調べてみたら、

「自らの心中に潜在している「主観」「物事について抱いているイメージ」に

とらわれており、考え方が凝り固まった状態」と出てきましたが、

私が思う”考え方の癖”というのは、マインドセット

つまり物事を判断したり、行動したりする際に基準とする考え方のことで、

経験や教育、その時代背景や環境などから形成される考え方や価値観、

無意識の思い込みや陥りやすい思考回路といったものも含まれる感じ。

最初にお話した「長く働くのは偉い」という考え方は、

まさに”環境から学んだ、無意識の思い込み”なんですよね。

しかも今年になってから気づいたものです。

無意識だから気づかない!

無意識の思い込みの厄介なところは、無意識な部分。

小さい時から、鏡の方を向いてレッスンをしてきたため、

オーディションでも、リハーサルでも、無意識に鏡を見てしまう。

というのはスタジオでよく見る例ですよね。

しかも無意識に鏡を見るところからスタートしたため、

鏡を見て「意図的に」テクニックを確認しているわけではありません。

スタジオでの物理的な立ち位置だけでなく、

自分の価値やレベルなど心理的な立ち位置を周りと比べて確認してきた人たちは、

「無意識に」鏡を見て、「無意識に」周りの子たちと自分を比べ、

同じ振付をしているから安心したり、

ほかの子と体のラインを比べ落ち込んだりしてしまいます。

Again、無意識に行われているものだから、

どうして自分が落ち込んだり、へこんだりしているのか分からない。

レッスンで起こることだから、

バレエが楽しくないと感じているんだろうと思ってしまい、

バレエを辞めることになるでしょう。

インストラクターコースでも、

周りと比べて自分の立ち位置を確認してきた先生たちと良く出会います。

本人は、周りと比べているとは思っていないんですよ?

マインドセットの壁は、無意識に起こるので。

  1. ほかの人がどこまで進んでいるか気になって仕方ない
  2. クラスメイトが、まだこのページはやっていないと聞くと、私もそうだったから安心する
  3. 一緒に練習している人が、スムーズに指導している様子を見て、私はダメだと思ってしまう

このような考え方は、「周りと比べる」というマインドセットの壁です。

え?それって普通じゃない?と思った人たちもいますよね。

「ほかの人と比べる」というマインドセットの壁がない人は、

ほかの人がどこまで進んでいるか、興味はあるかもしれないけど、

気になって仕方ない、不安だという感情にはなりません。

クラスメイトが、まだこのページはやっていないと言っていたら、

「一緒に勉強しようって声かけようかな?」と思うかもしれないけど、

自分の立てた勉強スケジュールの進み具合とは混乱はしないため、

安心したり、不安になったりの感情がついてきません。

一緒に練習している人が、

スムーズに指導している様子、つまり良く出来ている様子を見たら

すごいなーと思ったり、こうやってやるんだ!

というインスピレーションになるかもしれないけど、

自分の価値が下がったと思ったり、ダメな人間だと思うことはありません。

残念なことに、「周りと比べる」というのはバレエの環境では良くありますよね。

  1. ほかの人より上手だから、主役を踊る
  2. ほかの参加者より上手だったから、賞がもらえる

という場所にいる場合は特に。

ポジティブでも、ネガティブでもマインドセットの壁になる

これ以上話を進める前に、

今までの話の中で「競争がいけない」とは言っていないことに気づいてください。

競争や順位がいけないのではなく、

競争結果や順位に、反応する人たちがいるからマインドセットの壁になるんです。

例えば、学校の50メートル走。

とても早く走れる人がいたら、すごいなーとなりますよね。

リレーの選手にも選ばれるかもしれません。

それがダメなんじゃないの。

  1. 50メートル走でビリになった子をけなさず、最後までやり切ったことを認める
  2. 順位だけでなく、前回の自分の秒数より早くなったことを褒める
  3. 走るのは得意じゃないかもしれないけど、それは自分の価値とは関係ないと理解する

というようなことが出来ていたら問題ないんだから。

バレエのコンクールに出ることがいけないんじゃありません。

本人の努力と関係なく、コンクールの結果に左右されることが問題なんですよ。

  1. コンクールに出ると決めてから、いつもより多くの練習をこなせたことが成長
  2. 初めて1曲、一人で踊り切った勇気

というのが素晴らしいこともあるかもしれないし

  1. 結果に左右されず、あえて自分が苦手な雰囲気やテクニックが含まれているバリエーションにチャレンジした
  2. バリエーションの練習だけでなく、エクササイズクラスを継続し、振付に耐えられる体づくりをしてきた

という成長もあるかもしれない。

  1. 練習中に、ケガしてしまったので勇気を出して欠場した
  2. 痛みを感じたので、焦らずリハビリに向き合って、本番痛みなく踊り切った

という決断力を称えることも大切かもしれません。

もう1つ追加しておきたいのは、

ネガティブな経験だけが、マインドセットの壁を作るわけではないということ。

  1. OOちゃんはクラスの誰よりも細くていいね
  2. 私と比べ、OO君は甲が出てうらやましい

と言うようなものは、一見ポジティブに聞こえるかもしれませんが、

周りと比べる言葉がついていることに気づきますか?

このように「周りよりできているから偉い」と言われてきたり、

言われている子たちを見て育ってきた場合、

「ほかの人と比べることで、初めて良い悪いが決まるんだ」

と考えてしまう結果になるでしょうね。

もちろん、私の9時5時の考え方のように、

別に怒られた経験や、ほめられた経験とは全く関係ないこともあります。

マインドセットの壁を突破する最初の1歩

今日のポッドキャストを聞いて、

多くのマインドセットの壁があることに気づいちゃった人もいるかもしれません。

どうしたら、マインドセットの壁を突破することが出来るでしょうか?

一番のカギは「無意識」な考え方を「意識」すること。

踊りの癖と同じように、まずはそういう癖があるんだ、

という理解がなければ修正できません。

でも、一度気づいたら、修正する方法がたくさん見つかります。

例えば、私が「長時間仕事をする=偉いこと」という考えがあるんだ、と気づいたら

  1. 夜遅くまで仕事していると聞いたときに「すごいね」と言わない
  2. その日の作業が終わったら、時間と関係なく、お仕事終了する
  3. 理想の仕事時間は何か?をじっくり考える

などの行動が考えつきますよね。

バレエの癖と同じように、何度も練習しないと直らないかもしれないけど、

  1. 意識すること
  2. 注意し、予防すること
  3. 必要であれば、エクササイズをすること

はできます。

踊りの癖と同じように、先生に注意してもらう必要がある人もいるかもしれないし、

動画や写真で気づくように、

客観的に、時間を置いて自分の様子を振り返る必要があるかもしれません。

私がやっていることは、

  1. マインドセットコーチに指導してもらうこと
  2. ジャーナリングをして、客観的に自分が考えていること、思い込みを確認すること

があります。

また、

  1. 疲れたときに腰からアラベスクしちゃう
  2. 集中力が切れると、左の肩が落ちる
  3. 早い動きは、肘が突っ張っちゃう

というように、踊りの癖が出やすい時間帯や、シチュエーションがありますよね。

  1. 疲れていると、他人と比べやすい
  2. うまくいっていない時は、自分がダメだと思いがち
  3. 夕方4時ごろになってくると、時計が気になる

なんてことに気づいたら、

  1. 疲れないように体力をつける
  2. 疲れている時は、ケアを最優先する
  3. うまくいっていない時は、良く出来ている部分をリスト化する
  4. 思ったように進まないときは、過去の自分が決めたスケジュールを再度見直す

なんて行動もとれるかもしれませんよね!

バレエ学校をやめた最大の理由

今日の質問に戻りましょうか。

「愛さんがバレエ学校をやめるという大きい決断をする前まで、

こうではないといけないという固定観念があったと

気づいたことは何かありましたか?」

みんながDLSをフォローしてくれている理由は、

私がバレエ学校で働いているからだ。と思ったことはありました。

つまりバレエ学校の専属セラピストという看板や、

海外バレエ学校の先生、という肩書がなくなったら、

まともに話を聞いてくれる人がいるんだろうか?という不安ですね。

でも、私の中の価値観、バリューが、

新しいディレクターとマッチしないというのが

学校を辞めた最大の理由だったので、

不安は抱えたままで、前に進むことが出来ましたね。

ご存じのように、私は

ダンサーの健康と安全を第一に考えるレッスンが当たり前になるべきだ

と思って活動をしています。

でも、新しいディレクターはそのような考えは全くなかった。

その人の暴露話は置いておいて、

その人が新ディレクターになって2,3年でバレエ学校はなくなりましたから、

どういう感じだったのかは通じるかもしれません。

私の話を聞いてくれなくなるんだったら、私が頑張ればいい。

でも、通っている生徒たちの安全を守らず、将来の健康はもちろん、

今の健康も考えない学校の一員にいることは、絶対にできない。

そのため、判断に悩むことはなかったです。

よく、DLSで勉強しているけど、大先生がプッシュするストレッチをするし、

8,9歳からトウシューズレッスンが始まるスタジオで働いています。

という若い先生と話をします。

その時に言うんだけどね、

生徒たちにとっては、

アシスタントの先生も、大先生も、「憧れの先生」なんですよね。

だからね、その子たちに胸を張って、

今できる100%で指導していますと言えないのであれば、

その環境にいるべきではないと思うの。

口先では良いことを言っていても、

大先生のやっていることには目をつぶるんだったら、

いじめはダメです、って言いながら、

目の前でいじめている人に対して注意しないということでしょう?

確かに、昔からお世話になった先生は怖いよね。

私も、バレエ学校卒業して10年以上、

仕事を辞めてから何年も経っていますが、校長先生は怖いもん!

でも、自分が怖いから…子供たちは助けない。

これっておかしいと思うんですよね。

中で改革を起こすか、自分が辞めるの2択だけが存在すると考えていて、

校長先生には、様々な方法でアプローチして、

インハウスで治療が受けられる環境や、

ケガした生徒が見学ではなく、ほかのクラスを受けられる配慮、

エクササイズクラスの導入など、

私が提案した、より良いバレエ学校づくりを行ったけど、

新しいディレクターはそのような意見を聞く耳を持たなかったので、

「辞める」を選びました。

バトル中のマインドセット

だからといって、私にマインドセットの壁がないわけではありません。

最初にお話した仕事時間についてはもちろんですが、

それ以外にもアクティブに改善したい点がたくさんあります。

こういうマインドセットの壁があるよ、と例に出したものは、

私が実際に、過去にぶつかっていた壁です。

勉強しているから知識は頭には入っているのに、

自分のレッスンやエクササイズクラス前はストレッチしている自分を発見する

という点は、メルボルンで大人バレエクラスを受けたときに初めて気づきました。

無意識すぎて、数週間経って気づいたくらい。

あまりにも自動的に、床に座って開脚している自分に笑っちゃいました。

自分が踊っているときは、少人数のクラスだとラッキーと思っていたのに、

自分が指導し始めたら生徒数が少ないことを恥ずかしいと思ってしまう自分がいる

という点は、毎回来日セミナーのたびに戦う壁です。

申込者が少なかったら恥ずかしい、DLSは終わったよね、なんて言われたらどうしよう…

でもセミナー参加者としては、人数少ない方が嬉しいんだけどね。不思議ですよね。

生徒たちには、いっぱい食べて元気に踊ろう!と言うのに、

少しでも食べすぎたかもと思うと罪悪感が忍び寄ってくる

様々な体型の人が踊っていい、と分かっているのに、SNSで流れてきた動画を見て

「このダンサーは細くてきれい」という考えが最初に思い浮かんできてしまう

これらは今は良くなりましたが、

日本で最初のセミナーをやった2012年は、

ダンサーたちが真剣に話を聞いてくれるために、来日前に痩せなければと考えていましたね。

体型でその人の人柄や、提供している内容の良さ、

価値を決めるなんてなんで浅い人間なんだ!と思いますが、

長年そういう世界で、そのように判断されてきたダンサーたちが、

考えを改めるのはとても時間がかかるのかもしれません。

だからこそ、DLSで伝え続けているんですけどね。

最初の方でお話したように、

マインドセットとは育ってきた環境に強く左右されます。

この質問をくださった方と私は同じジャンルで踊っていたわけでもないですし、

バレエ学校をやめるという判断と、自分が経営しているサークルの方向性を変えるというのは、

ちょっと分野が異なるので、こういうのがあるよ、という例を出すことはできないです。

でも、昔バレエスタジオで言われたことが、行動や感情を変えてしまうように、

今までの行動や壁を見直すと、共通点が見えてくるかもしれないです。

もちろん、無意識なものは、自分で修正するのは難しいから、

コーチングを頼むのもすごく大切だと思います。

今日のエピソードの最後に伝えたいことは、

バレエの癖と同じように、マインドセットの壁があることが悪いことではないよ、ということ。

癖があっても、なくても、バリエーションは踊れるけど、

癖がない方が、見ていてスムーズですし、ケガのリスクも少ないです。

癖が強いキャラクターならいいけど、この役は任せられないよね…

と思われることもないでしょう。

なのでマインドセットの壁に気づくこと&気づいたら修正することは大切ですが

その時に「またこう考えちゃった、私はダメなんだ」と思わないことに気を付けてみてください。

ということで10月のポッドキャストは

バレエ解剖学やエクササイズから少し離れたお話をしてきましたが、いかがでしたでしょうか?

このようなお喋りポッドキャストの感想や、私に聞いてみたいテーマは

hello@dancerslifesupport.comへメールか、インスタのDMで教えてくださいね。

いつもはDMを頂かないサイレントリスナーの方々から、お話を聞けるのを楽しみにしています♡

Happy Dancing!

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