「背中をまっすぐに」「腰はそらない」と言われたことはありませんか?
背骨のカーブについて、知らないと思い込みがちな落とし穴があります。
年齢や身体の個人差についての理解も深めて、
レッスンやエクササイズ、日々の指導を見直すヒントを一緒に探してみましょう。
Transcript
こんにちは、DLSの佐藤愛です。
9月の総集編シリーズを作っている時に、衝撃の事実に気づきました。
それは、ポッドキャストで背骨のバレエ解剖学についてお話していないこと!
背骨の話をしていなかったわけではありません。
背骨、背中の動き、背面…色々とエピソードはあったのですが、
背骨の構造について「だけ」をお話したことはなかったんですね。
教師の為のバレエ解剖学講座モジュールで背骨がカバーされないことはないですし、
インスタライブでやっていたバレエ解剖学授業でも背骨は時間をかけました。
あと少しで10周年を迎える「バレエの立ち方できてますか?」でも細かく勉強しました。
でも、ポッドキャストにないなんて…
もしかしたら今は幻となっている昔のポッドキャスト達にあったのかな?
でも最近一番のビックリニュースでした。
ということで今月のDLSポッドキャストでは、
背中を使いたいダンサーだったら知っておかなければいけない、
背骨の構造についてを深堀していきたいと思います。
背骨の基礎
日本唯一のバレエ医科学ポッドキャストらしい、
マニアックなポッドキャストを毎週聞いてくださっているレギュラーさんなら、
「背骨には3つのセクションがあります」ということは既に知っていると思いますが、
どんなプロでも基礎レッスンが大事なのと同じように、基本から見ていきましょうか。
背骨、正しく解剖学用語にすると脊柱は体幹にある骨の塊、つまり骨格です。
- 頭蓋骨の真下から頸椎が7個
- 肋骨のセクションに胸椎が12個
- 腰の部分と言われる腰椎が5個
脊柱でもあり、骨盤でもあるサブ腰椎セクションは
- 仙骨
- 尾骨
で出来ています。
仙骨&尾骨は背骨の一部ですが、自分の意思で動かせるわけでもないので、
骨盤の一部と説明した方が、
動きを指導する先生や、体を使うダンサーには分かりやすいと思っています。
バレエ学校でもそうやって指導してきたので、
今月背骨と言った時には、主に頸椎、胸椎、腰椎の7,12,5だと思ってください。
背骨の生理的弯曲
背骨には生理的弯曲、つまり自然に存在するカーブがあります。
前弯というのはカーブのでっぱりが前側にいくこと
後弯というのはその逆で、カーブのでっぱりが後ろ側にいくこと
です。
- 頸椎は前弯
- 胸椎は後弯
- 腰椎は前弯
という形をしています。
仙骨と尾骨のカタマリ部分、頭蓋骨の骨の形も丸みを帯びているでしょう?
だから
- 後頭部の後ろに出っ張るカーブ
- 首の前に出っ張るカーブ
- 肋骨の後ろに出っ張るカーブ
- 腰の前に出っ張るカーブ
- 骨盤の後ろに出っ張るカーブ
というようにカーブが行ったり来たりするんですね。
先ほどお話したように仙骨のカーブを自分で変えられるわけではないですし、
エピソード591でお話したように、頭蓋骨はゆがみませんから
これらのカーブについて知っていてもバレエに役立たないけど、
知ってるとちょっと得した感じになる気がします。
もっとマニアな人達。
- 骨盤の後ろ向きカーブの続きは
- 膝は前に曲がり
- 足首は後ろに曲がり
- 足のアーチはちょっと分かりづらいけど体の前面へのカーブなので前に曲がる
ということで、人間の体はカーブがいっぱい存在するのです。
これらカーブのお仕事は重力に反して姿勢を維持してくれることと、衝撃吸収。
慣れちゃっている私達は忘れがちだけれど、
私達は常に重力という下向きのプレッシャーを感じて生活しています。
背骨はね、皆さんが意識していないところでも、
持続的な圧迫に耐えて姿勢を支えてくれているんですよ、感謝してくださいね。
衝撃吸収のお仕事の方は、ダンサーにも分かりやすいですよね。
ジャンプはもちろん、重心移動をするということは、体に衝撃がかかります。
足から伝わる衝撃を、背骨をはじめ、様々な関節が緩和してくれているんですね。
そうじゃないと、毎回プチアレグロの後に
脳震盪で倒れているダンサーが発生してしまいます。
年齢比や個人差のある背骨カーブ
こういった背骨カーブの知識がなく、どこで誰に習ってきたのか分からないような
反り腰対策とか、反り腰の測り方、なんていうのをSNSで見ると怒りを覚えますし、
それを信じちゃう人達にはガッカリします。
少し勉強すれば、というかたぶん学校の理科室にある模型を眺めていれば
背骨にカーブがあることくらい分かると思うんだけど、
「上向きに寝転がって、手のひら1枚以上腰の下に入るあなたは反り腰です」
みたいなのを平気な顔で言っちゃうプロがいるので、みんなは気を付けてね。
これね、形だけピラティスが広まったせいもあると思うんですよ。
確かに、私も資格を持っているピラティスというエクササイズ”ブランド”の中には、
「インプリント」と呼ばれる動きがあります。
敢えて、エクササイズ”ブランド”と呼んでいる理由は
ブランドという英単語の意味、「銘柄」と言っているからですよ。
上向きに寝転がって、膝を立てて、
骨盤を軽く後ろに傾けて、腰椎のカーブをなくす動き。
これはピラティスというエクササイズ”ブランド”でいう「インプリント」ですが
- それが独り歩きしたのか
- それを間違って指導されたのか
- それを形だけ真似して、どうして行うのかの理由を考えなかったのか
インプリントする腰が「正しい姿勢」だと思っている人達がいます。
DLS公認スタンスインストラクターコースは難しいです。
いきなり何を言い始めるかって?ちょっと我慢して聞いてて。
このコースが難しい理由は、正解がないから。
というとおかしいかな、正解は1つではないから。
教科1の解剖学筆記試験から、
正解はAかもしれないしBかもしれない、みたいな形になっています。
ダンサーの様に白黒思考が好きで、
YESかNO、正しいか間違い、と考えやすい人達は
コース中苦戦します。
でもね、さっきお話した
「インプリントはピラティスの正しい動きだから、腰椎のカーブはなくすべき」
と考えてしまう弊害の様に
答えを1つだと決めつけてしまうと、それに合わない人達が出てきてしまうんです。
今日のテーマ、背骨に戻りましょう。
背骨にはカーブがあるとお話したね?
でもね、背骨のカーブの角度に正解はないの。
鼻の高さや、頬骨のように、個人差がある。
しかも年齢によって背骨カーブは異なります。
赤ちゃんには行ったり来たりする背骨カーブはありません。
全体的に丸まってます。
そこから、ハイハイのような頭を持ち上げる動きを経て頸椎の、
立ち上がり、歩くなどの動きを経て腰椎の生理的弯曲が生まれます。
そしてこれらのカーブが年齢と共に育っていくんですね。
足のアーチも同じように、赤ちゃんにはないものね。
身長や骨格に遺伝子が影響するのは分かるでしょう?
ほら、背が高いご両親なら背が高い子みたいな感じ。
脊柱とは骨のカタマリ、つまり骨格です。
そのため背骨カーブにも人種、遺伝子が影響します。
胸椎伸展のワナ
一生懸命衝撃吸収をしようとしてくれるのに、みんなに嫌われる腰椎カーブだけでなく、
最近は胸椎カーブも生贄になっているようです。
確かに胸椎のカーブが大きすぎる人はいます。
重力の関係でお年寄りの背中が丸まっていくのも1つだし
学歴社会で、小さい時から机に向かっているから、という生活習慣も1つだし
現代人の生活で絶対に必要な、パソコン、携帯、車の姿勢で分かるように、
背中を丸める時間が長くなっていますよね。
でもね、過度に丸まった後弯を、元の後弯に戻す必要があるだけで
胸椎カーブをなくしてほしい、つまり胸椎を伸展させてほしいわけではないんだよ。
そのような”使い方”はできます。
関節なので、様々な方向に動きますから。
だけど、「腰椎の下に手が入ったら反り腰」みたいな感じで、
「胸椎伸展したら健康」だとは思わないでくださいね。
さっきもお話したけれど、背骨にカーブがある「理由」があります。
それは衝撃吸収。
舞台に立てば観客が上の方にいるから
レッスンの時よりも胸椎の伸展が必要な場合もあるだろうし、
バレエのスタートと言われるルイ14世の時代は、
コルセットの1つ前になるステイズと呼ばれる、
胸を潰して、背中を真っ平にする下着が使われていたし、
その時代の後は、みんなが良く知っているコルセットに移行しているわけだよね。
だから歴史的な観点からも、背骨が平らに見えるのかもしれない。
だけどそれは、現代ダンサーに求められる動きではないはずです。
エピソード542で勉強した論文で分かるように、
現代のダンサー達は、昔よりもより高い足の高さが求められます。
つまりね、より柔軟な背骨が必要だってこと。
柔軟な背骨とは、1つの方向にしか動かせない背骨ではないですよね?
背骨が動く方向再確認
背骨の柔軟性の話が出たので、
エピソードを終える前に背骨の動く方向を復習しておきましょうか。
背骨は
- 屈曲、前に丸まること、曲がること
- 伸展、後ろに丸まること、反ること
- 側屈、横に体を倒すこと、右と左で可能
- 回旋、ひねること、右と左で可能
という6つの動きを行います。
6つの動きの間も存在します。
例えば、アロンジェの時に使われる首の動きは、
- 横に顔をつけるエポールマン、つまり頸椎の回旋
- 顎をあげる、つまり頸椎の伸展
の2つがペアになって出来る動きです。
アラベスクの時に必要な胸椎は
- 胸を持ち上げる、つまり胸椎の伸展
- 腰椎からの回旋を緩和するためのカウンタームーブメント、つまり胸椎の回旋
が必要になります。
胸椎の伸展が足りなかったら、頭が下がってしまうし、
回旋が足りなかったら、アラベゴンになってしまいます。
もちろん、左右の動き、前後の動きをペアにしたらプラマイゼロになっちゃうので動けませんが。
これら6つの動きは、各背骨セクションで自立して動けるんでしたよね。
さっき使った例のアラベスクで、右足を上げているとしましょうか。
- そうしたら骨盤は右に回旋しなければいけないので、腰椎も右に回旋します
- でも胸椎はカウンタームーブメントをするから、左に回旋します
- 目線は、アラベスクの前の手を追うので、頸椎は伸展します
みたいな感じ。
背中を使いたいダンサーが覚えておきたいこと
ま、何が言いたいかというと、
背骨は様々な方向に、様々なバリエーションで動きます、ってこと。
だからね、ダンサーの背中のトレーニングも、
様々な方向に、様々なバリエーションで動かなければいけないんです。
ダンサーに特化したエクササイズ、つまり舞台で使えて、
バレエが上達するエクササイズをやりたかったら、
- 背筋鍛えて!と言いながらのエビぞり一本
- 腹筋強化のために、腰を床につけたダンゴムシ腹筋
では足りないんですね。
それらが絶対にダメだとか、1回でもやったらケガすると言っているわけではありませんが。
ただ、危険な動きではあるので、今月どうしてこれらの動きを避けるべきか
背骨の構造、解剖学の視点でお話していきましょう。
しまった、努力のつもりが良くない動きをしてたかも…と気になった人は
ダンサーに特化したエクササイズ、ボディコンエクスプレスをどうぞ。
毎週5つのタイムスロットから選べる、オンライン30分エクササイズクラスです。
えーオンラインで30分で効果あるの?と思った人、
8月にエビデンスベースでこれらの質問に答えているポッドキャストをお送りしました。
そちらを聞いて、納得してね。
ではまた、来週もマニアックなバレエ解剖学の世界でお会いしましょう。
Happy Dancing!
