「プリエが浅いからバレエ向いてない」なんて言わせない!
プリエが浅いとはどういうことなのか、ダンサーや先生は何が出来るのか?
を解剖学と論文と共に考えてみました。
Transcript
今まで書いた本の中で、一番贔屓しているのはプリエ本な佐藤愛です。
これは、今までもSNSなどでお話してきましたが、私、5冊本書いているんですね。
DLSで出しているebookではなく、出版社を通じてという意味ですが。
その中で、一番好きなのはプリエ本なんですよ。
一番マニアックだと思うんですが、皆さんはいかがですか?
インスタのDMで一番好きな本と理由を教えてくださいね。
さて先週に引き続き、今週もプリエについてお話していきます。
先週のエピソード577では、プリエの基礎についてカバーしたので
まだ聞いていない人は、そっちを先に聞いてみませんか?
その後に続きを聞いてください。
先週のポッドキャストの終わりに、
「プリエの定義の中には、深さの指定はない。
ではどうして、何をもって、プリエが浅いと判断するんでしょうか?」
と質問しました。
深いプリエって大事だというのは、どこから来たんでしょうか?
プリエの深さ
研究を見てみると、確かに足首の可動域が広いと
ジャンプの高さやケガ予防になるというデータが多く見つかります。
(例えば、バレーボール選手を対象としたこの研究)
ですが、小さな規模の研究だとはいえ、その人が持っている一番深いプリエよりも、
その人が自然に出来るプリエでジャンプした方が高さが生まれたという研究もあります。
つまり足首の可動域を作るトレーニングは大切だけど、
高くジャンプするために、深くプリエしなきゃ!と無理するのは逆効果だし、
深くプリエが出来たらできるほど、高くジャンプが飛べるわけでもない。
ちなみに、ロイヤルバレエ団の男性プリンシパルと仕事をしたときに、
彼のプリエは非常に浅かったですし、本人もそう言っていました。
でもプリンシパルでしたよ。
どこまでプリエが出来たらOK?
深くなきゃいけないわけじゃないけど、可動域が広いとケガ予防にはなる。
じゃ、どこまでプリエが出来たらOKなんでしょうか?
この答えは2つに分かれます。
1つは膝壁テスト。
knee to wall testというアセスメント方法があって、
治療家はその数値を確認することが出来ます。
良い範囲と言うのかな、通常と言われる範囲は5-10㎝だそうです。
この話や、詳しい方法は
「前方インピンジメント&プリエの浅い子」という
教師の為のライブラリのクラスでお話していますが、
治療家やトレーナーではなければ、
もしくは、ケガから舞台復帰するのをサポートする
プライベートレッスンコーチでなければ、
使うチャンスはないと思います。
ということは、プリエが浅いというカテゴリに入るのは、
膝壁テストで5㎝未満だったときとなりますよね。
バレエの先生が、レッスンの、しかも早いアレグロで
これを判断する事は不可能でしょう。
ただ、プリエが浅いわよ!と言うのであれば
こういった見極めをしている必要があります。
- 感覚
- 見た目
で判断するのは、生徒の将来を預かるプロの仕事としてどうか?と思いますし
- プリエが重いから、硬いから
- 着地がうるさいから
- 踵が上がってしまうから
というのは理由になりません。
芸術としてのバレエとプリエ
どこまでプリエが出来たらOKなのか?
という質問の2つめの答えは、5-10㎝なんて簡単なものではありません。
エビデンスのない、芸術としてのバレエを考えなければいけないからです。
そもそもプリエを深くしたい理由は、バレエ上達だとしますよね。
深いプリエが出来たら、ジャンプも高く飛べるし柔らかく着地が出来るから!
という意見があった場合、
高く飛ぶ理由も、柔らかく着地する理由も、バレエテクニックの為となります。
だから、バレエ上達の為にプリエを深くしたい。
理論的だと思いません?
より良いテクニックに向かって、
レッスンでプリエについて意識するのは素晴らしいでしょうね。
日々、少しずつ向上心と目的をもってレッスンに参加していたら、
たとえプリエの幅がすっごく変わらなくても、
1か月もすれば上手になっていると思います。
だけど、「どこまでプリエが出来たらOKか?」という質問になってしまうと
芸術としてのバレエではなく、スポーツとしてのバレエになってしまうのね。
数値が必要だから。
先ほどの膝壁テストで、世界トップと言われる英国ロイヤルバレエ団の、
カンパニートップと言われるプリンシパルは、3㎝しか出来なかったとします。
そうしたら、彼のダンサー生命は終わり?
彼はダンサーに適さない?
もし、彼のスタジオの先生が、若い時に
「あなたはプリエが浅いのだから、バレエは向いてないわよ」と言っていたら
もしくはトラウマになるくらいギューギューとストレッチをさせていたら、
彼がロイヤルバレエ学校に入学し、卒業し、
カンパニーメンバーになり、プリンシパルまで上り詰めることが出来たでしょうか?
もちろん、本人が言っていたように
プリエが浅いという自覚はあるようですし、
たぶんそのために様々なトレーニングや努力をしてきたのでしょう。
なのでプリエが浅いのを放っておいていいよ、と言っているわけではないです。
ターンアウトもそうだし、つま先もそう。
- 180度の1番ポジションが出来なかったら、バレエをやる資格がない?
- 開脚でピッタリとつかないから、諦めるべき?
- ローラーの上に足を乗せて、つま先が床につくまで押すべき?
- 甲が”出ない”から、バレエは諦めるべき?
ターンアウトも、つま先も、プリエも。
バレエで必要なテクニックです。
でもテクニックとは、貴方の踊りをより良くするものではなかった?
ここまで出来たらOK、という考え方や指導で、
アーティストは良いんでしょうか?育つんでしょうか?
逆にここまで出来ないなら、退学、というような考えで良いのでしょうか?
バレエレッスンで育てる可動域
先週のエピソードでお話したように、私は何度も言っているつもりだけど、
知らない人、忘れちゃっている人もいるかもしれないので
何度でも繰り返すよ。
- 甲だしするから、つま先が伸びる
- 180度以上の開脚が出来たら、足が上がる
- 深いプリエのためにアキレス腱伸ばし
ではないんですよね。
- つま先を伸ばす練習
- ターンアウトの練習
- プリエの練習
をするから、結果としてつま先が伸びて、
ターンアウトが出来て、プリエが使えるようになるわけ。
息継ぎできたから水泳する、
じゃなくて水泳で泳ぎながらの息継ぎ方法を学ぶように
楽譜が読めないならピアノ出来ない、
じゃなくて、ピアノの練習の一部に楽譜を読むことが含まれるように。
バレエのレッスンを行うから、
バレエで必要なテクニック、筋肉、可動域が育つのよ。
- 良いレッスンを受けていれば
- 基礎からしっかりとやっていれば
- 年齢に合わせたレッスンを受けていれば
先週のエピソードで受動的と能動的の違いを説明したの覚えてる?
もし、踊りの中で使いたいのであれば、
自分の意思で使えるようにしないといけないというのもお忘れなく。
プリエが浅くて悩んでいるダンサーがやっておきたいこと
そうは言っても愛さん、私プリエが浅いんです。
どこまでプリエが出来たらOK?という質問じゃないけど、
今より上達するためにどうしたらいいですか?
どこからスタートしたらいいですか?
そう思っている皆さん、ご心配なく。
来週のエピソードではこの部分を見ていきたいと思います。
大丈夫、アキレス腱伸ばしして!という話はしません。
だってアキレス腱って弛緩してしまうと役に立たないんだもの。
ただ、アキレス腱とは腓腹筋とヒラメ筋のしっぽですので、
これらの筋肉をリリースするのは、良いアイデアかもしれませんね。
腓腹筋とヒラメ筋はそれぞれ大きなふくらはぎの筋肉で、
腓腹筋は膝関節を超えて足首関節を超える形、
ヒラメ筋は足首関節を超える形になっています。
しかも足フットには多くの骨があり、多くの関節があります。
関節があれば筋肉がある。
脛周りには腓腹筋とヒラメ筋を除いても10個の筋肉があって、
どの子が伸ばされるか?は足首やつま先の方向、膝関節の屈伸に影響されるんです。
そのため、この2つの筋肉を効果的に、安全に、
ストレッチするのは知識がなければ至難の業。
だから、リリースやセルフマッサージの方が皆が出来る方法になると思います。
初心者は、ボールやツールを使うのではなく、自分の手でマッサージしてください。
指が疲れるので、マッサージし過ぎからくるケガを防ぐことが出来ます。
8月のボディコンサークルでは、このように理論的に&解剖学的に
ダンサーが調整しておきたい筋肉を安全に、そして効果的に
リリースやストレッチする方法をお話しましたよね。
ご存じのように、現在私はボディコンサークルをお休みしていますが
また元気になって戻ってきたときには、画面越しで一緒にエクササイズしましょう。
このテーマについてもっと勉強したい人は、私の「プリエ使えてますか」本をどうぞ。
チャプター3に載っているエクササイズは動画もついてきます。
アマゾンレビューを残してもらえると、
エビデンスベースの安全なダンス知識を多くのダンサーに届けることが出来ます。
ご協力お願いいたします。
先生たちは、「前方インピンジメント&プリエが浅い子」
という教師の為のライブラリクラスもどうぞ。
ライブラリにはどんなクラスが入っているかをチェックしたい方は、
「教師の為のライブラリ DLS」と検索したら出てくると思います。
では、来週はプリエが浅い理由を一緒に見ていきましょう!
Happy Dancing!
