ダンサーのケガやテクニック向上について、
誰でもなんでもネットにアップロードできる今の時代、
エビデンスベースの情報や知識はダンサーの未来を守るだけでなく、
よりよい社会を作ってくれるのではないか?と思います。
Transcript
今月のおしゃべりポッドキャスト、実は苦戦している佐藤愛です。
レギュラーリスナーさん達はご存じのように、
DLSポッドキャストでは、ダンサーや先生、保護者向けに
エビデンスベースの情報をお届けしていることが殆どなんですが、
時々、今月の様に、おしゃべりポッドキャスト、という種類の、
私のアップデートや最近感じていること、舞台の話や、セミナー裏話などをお送りしています。
先月のプリエや、先々月の5歳児バレエシリーズなど、
テーマが明確で、しかも自分の話ではない方が私は作るのが楽しいです。
9月のプリエシリーズは、2019年に「プリエ使えてますか?」で
100ページ以上に渡る本を書いたというのに、
まだプリエについて語れる自分に驚きましたが、
やっぱりバレエ解剖学と、エクササイズを使って、
バレエの動きを分析するのが大好きみたいです。
その前の5歳児シリーズは、DLS12年を記念して、
いつもはテーマにすることがない年齢層にチャレンジしてみたんだけど、
論文を読んだり、専門家の意見をリサーチしたりするのは
チャレンジでしたけど、楽しかったです。
いつもは使わない筋肉を育ててる感じ?っていうと
エクササイズが好きな人達には通じるかしら?
今月のポッドキャストでは、
がんの治療でお休みするよと発表したため、
心配している人達も多いと思ったので、
パーソナルアップデート、近況をお送りしようと決めたんですが、
実は裏で四苦八苦しています。
書いては消して、書いては消して。
あーでもない、こーでもない。
挙句の果てに、インスタで私への質問を募集したくらい困っていました。
理由はとっても簡単で、自分の話をするのが好きじゃないからです。
うーん、この表現は少し違うな。
「私のことを知らない人達に向かって、自分の話を発信するのが好きじゃないからです。」
の方が正直な感想かもしれません。
2エピソード前の「愛さんのパーソナルアップデート」でもお話したように、
今年の7月末にがんの診断を受けまして、
その3週間後に公式にDLSをお休みする投稿をアップしました。
でも、皆さんも思っているかもしれないけど、
愛さん、毎日SNSにアップしてるし、毎週ポッドキャスト出してるじゃん。
メルマガも届いてるけど、本当にお休みしているの??
そう思うよね。
私はスケジュールの鬼なので、準備出来るものは、時間の許す限り準備しています。
このポッドキャストが皆さんの耳に届くのは、10月下旬ですが、
準備している現在は9月中旬です。
ですが、毎週日曜日に行っていたボディコンサークルは8月をもって当分休止。
インスタライブや補助輪クラブなど、その日に行わなければ出来ない活動もお休み。
現在、インストラクターコース5期生と、アドバンスドコース2期生がコース期間なのですが、
そちらのクラスも動画に変更できるクラスは事前準備しています。
ただ手術日とその後の治療によっては、
ライブ授業はもしかしたらお休みか、ファシリテーターにバトンタッチする、
スケジュールが変わるクラスがあるかもしれないとは小鬼たちに説明しています。
ということはね、コース生とボディコンレギュラーさん以外には、
別に発表しなくて良かったんですよ。
公に発表するか、メルマガだけでお伝えするかも迷いました。
あまりDLSを知らない人だったら
休むって言ってたのに、活動休止しないから詐欺なんじゃないの?
と思われるかなという心配もちょっとあったんですよね。
休むと言ったら、全ての投稿をストップして全く活動なし!というのも考えたのですが、
DLSチームのお給料はお支払い必要ですし、
ボディコンエクスプレスの先生たちとコミットメントもある。
もちろん、スケジュールを作ってくれたコース生達へ、
約束した内容を提供しなければ!と思っています。
また、年に1度のDLS来日セミナーを楽しみにしてくれている人達もいるので
その人達へ随時アップデートしていくのも大切だと感じました。
来日セミナーは毎年3月に行われるので、
まだまだ遠い話だと思われるかもしれませんが
裏準備は10月くらいから始まるんですね。
11月にはクラススケジュールと、会場仮押さえが終わる必要があり、
12月には申込準備に必要なサイト、ページ、自動送信メールなどが全て終わっていて、
お正月休みが明けたら、来日セミナー申込スタートが出来る。
という流れのため、たぶん無理だろうな、というのが当初の感想。
さっきもお話したように、現在9月中旬なんですがまだ手術日が決定していません。
最初は、手術は8月末くらいかもね、と言われていたのですが、
この様子だと、9月末から10月上旬になると思われるので、
復帰がセミナー準備に間に合わないことがほぼ確定ですよね。
It is what it is.
医療関係のスケジュールや、病棟、手術医の時間などは、
私の力ではどうしようも出来ないのだから、悩んでも仕方ないのでしょう。
コントロール出来ないことは、手放して、自分が出来ることを100%行う。
これも、2週間前のエピソードでお話したとおり。
実はもう1つ、今回の発表に向けて心配していたことがあります。
もう1つというより、最大の心配事。
それは、エビデンスベースじゃない意見がたくさん来るんじゃないか?というもの。
- OO食べると良いですよ
- XX避けると良いですよ
- OOが効くと聞きました
という系統のアドバイスを、私の病状を知っている医療関係者ではない人達からもらう。
というのが私がとっても苦手なことなんです。
皆さん、サポートしてくれようとして教えてくれるのはよく分かるからこそ
どう対応していいのか分からない。
嬉しいことに、この系統は思ったよりも多くなかったです。
ありがとうございます。
こういう感じの言葉は、
バレエ学校で原因不明と言われたケガをしていた時にも言われました。
「セロリにピーナツバターをつけて食べたら、足のケガにいいって聞いたよ」
という笑っちゃうようなのもありましたが、
当時、わらにでもすがりたい気持ちだった、18歳の愛ちゃんは困ったものです。
セロリは大嫌いで臭いすら嫌だし
ピーナツバターは太るから食べるべきじゃない。
だから足のケガが治らないのか!?
ジョークにならないものもたくさんありました。
- 太ってるから、足に負担がかかるんだ
- 体重が重いから、ケガが治らないんだ
このような言葉は、先生たちから言われたので、
クラスメイトのセロリの話よりも打撃が大きかったです。
太っているからケガしたのであれば、
ケガした理由は自分にある。
つまり、食べるのが辞められない私がいけないんだ。
つまり、絶食する”努力”が出来ない私は、ケガして当然なんだ。
これを、ビクテムブレ―ミング、被害者非難と言います。
この考えが私の摂食障害を酷くして、ケガの修復を遅らせ、結果疲労骨折に繋がったのだと
今のエビデンスベースでダンサーのケガを考える仕事をしているからこそ分かりますが、
もし治療家の道に進まず、帰国してバレエの先生になっていたら、
同じことを生徒に言っていたかもしれません。
「ケガして踊れない時こそ、食事が要らないから、ダイエットにピッタリよ」
「私が踊っていた時は、リンゴ1つとチーズひとかけらで1日過ごしてたわよ」
「水は太るから、スイカを食べなさい」
最後のは笑っちゃうだろうけど、今の3つの例は、実際に私が先生たちからいわれた言葉です。
さっきも言ったように、このようなエビデンスベースでないアドバイスをくれる人達は
悪気があるわけではないと思うんですね。
自分たちが言われてきたから、そう習ったから、というベースラインがあると思うの。
先ほどお話したように、今回の発表で一番の心配事は、
がんについて専門家ではない人達から、
エビデンスのないアドバイスが届いたらどう対応しようか?でした。
実際に私にDMしてくる人達は少ないかもしれないけれど、時には
- ジャンクフードばっかり食べているから、がんになる
- オーガニックフードじゃないから病気になる
- 現代病だから、昔のような生活をすべきだ
なんてことを言ってしまう人達がいますよね。
特に多かったのは、食べ物系だったので、私も色々調べてみたんですよ。
短い話、単一の食品で『がんを予防・治療できる』という
確立した根拠は見つかりませんでした。
様々な予想はあるものの、食事の研究はとても難しいそうです。
たとえば、ジャンクフードが良くないという話。
ジャンクフードを食べ続けたことが繋がったのか、
ジャンクフードを食べるような生活、例えばお家で料理する時間がないくらい、
バイトの掛け持ちをしなければ食べていけない生活が原因だったのか。
立地条件上、フレッシュな食材を手に入れるのが困難で、値段も高くなってしまうため、
結果としてジャンクフードが多くなってしまうエリアに住んでいることなのか。
特に車で遠出しないと食品が買えないという立地条件の場合、
歩く量、つまり運動量が制限されます。運動不足?食事?車社会の大気汚染?何が原因?
親のネグレクトを受けて育ってきた子供達は、
手軽に買えるジャンクフードで毎日をしのいでいる可能性もあります。
それが習慣となり、大人になっても続いてしまう人もいるでしょう。
その場合、本当に本人だけの責任なのでしょうか? 親の責任?
それとも、そうした家庭問題へのサポートが十分でない社会の問題?
鬱などの精神疾患がある場合、
現在ケガや病気を抱えている場合、
身体障害がある場合など、
外に出て買い物をしたり、重い荷物を持って帰宅したり、
長時間立って料理をすること自体が困難な人もいます。
また家族の介護で付きっきりになり、自分の時間がほとんどなく、
食事は車の中で急いで済ませるしかない人もいるでしょう。
今あげたような条件に当てはまっている人達に、
- ジャンクフードを食べたのは自分でしょ
- 運動しないのは自分のせいでしょ
と言って良いんでしょうか?
これって、さっきお話した被害者非難にならないかな?
ご存じのように、私はこの分野の専門家ではありません。
ただ、DLSポッドキャストのリスナーさんは、
女性のダンサーや先生、保護者の方が多く、
統計的にこのグループは摂食障害のリスクが高いといわれています。
食べ物を極端に避けたり、逆に特定の食品だけに偏ってしまう傾向も、
その一部に含まれてしまうからこそ、
こうした話題をきっかけに「ちょっと立ち止まって考える」時間を持つことが
大切なんじゃないかなと思って、テーマを選んでみました。
18歳の愛ちゃんもそうですが、
食事や体型にこだわってしまう傾向がある人達は
特に変な情報に気をつけなければいけないとは思いますが、
食事だけが病気やけがを作るのではありません。
何世代にもわたった遺伝や、自分では変えられない環境というのもあります。
紀元前3000年頃の医療記録に、がんは残っていますし、
青銅器時代(せいどうきじだい)の頭蓋骨に
腫瘍の後が残っているのも発見されているので、
昔の人はかからなかった、なんて話に乗ってはいけませんよ?
医療の発展で、それ以外の病気やケガで亡くなる人が少なくなったから
みえるようになったという部分も忘れてはいけません。
セロリとピーナツバターで足のケガが治るとか、
太らないためにスイカを食べるとか、
20年経った今でもネタにしちゃうような
笑い話にされてしまいますので気をつけましょうね。
このように、正しい情報を選択する力を身につけるのも勿論大切だけど、
発する言葉や、当たり前に聞こえることについて、今一度考えることができたら
自分の立場を理解した上で、言葉を発することができたら、
少しずつ、優しい世界になるんじゃないかな?と思います。
今日も最後まで聞いてくださってどうもありがとうございました。
来週は、先が見えない時のスケジューリングや、
急に予定が変わってしまった時の立て直し方についてお話していきますね。
Happy Dancing!
