科学的根拠にレベルがあるって知ってた?
歴史と共に、エビデンスピラミッドについてを
バレエに当てはめて詳しくお話しました。
同時に問題点についても理解を深めていきます。
Transcript
皆さんこんにちは、DLSの佐藤愛です。
2026年スタートのポッドキャストでは
”エビデンスベース”ってなんなのさ?ということをお話しています。
今日はその第2弾。
エビデンスベースの定義と、3つのポイントについてをお話しました。
ささっと復習。
「エビデンスに基づく医療とは
最良の研究エビデンスと臨床専門知識、患者の価値観を統合することである。」
という定義があり、文章の中にあるように
- ベストな研究(エビデンス)
- 先生、専門家がどうやって自分の専門エリアにエビデンスを取り入れるのかという知識
- クライアント、ダンサーの価値観
を総合することをエビデンスベースと言います。
そのため、エビデンスベースのバレエ指導とは
- 最新の、今手に入るベストな研究や、科学的根拠を
- 先生が、自分の生徒、スタジオなどの現場に当てはまる形にする知識をもち、
- 生徒の状況や考えを尊重する形で提供する指導
となるとお話しました。
覚えてますか?
今日はその先、エビデンスピラミッドについてお話したいと思います。
エビデンスベースの歴史
エビデンスがどーのこーの、など知らなくても、今まで踊ってきたわよ!
科学的根拠なんてなくても、数十年の指導に困らなかったけど?
と思う人たちもいると思います。
そもそも、エビデンスベースという言葉は、レッスンで使われないんですよね。
使われてたら、ちょっとおかしいんだ。
例えば、体調不良でお医者さんに診てもらうとき
そのお医者さんはコロナとインフルの違いについての
システマティックレビューとか、エビデンスピラミッドとかを語らないでしょう?
あーインフルエンザですね、学校は休んでくださいね。くらいでしょう?
とはいえ、その診断はお医者さんが
「勝手に」「今までの経験だけで」判断したわけではないでしょう。
その人の基準は、シックスセンスとか、今日の月の満ち欠けではなく
医学的な判断だったと思います。
医学的な判断をするためには、知識が必要で
その知識というのは、エビデンスベースなはずです。
こういう感じで、お客さん側、患者さん側が見るものと
お医者さん側が勉強すべきこと、知識とは異なるんですよね。
バレエの話に戻すと
生徒側が見るもの、レッスンで提供されるものと
先生が勉強すべきこと、先生が持っておくべき知識は異なるわけだ。
今お医者さんを例にとってお話したのには理由があります。
先週も使った、「エビデンスに基づく医療の実践方法」という学術論文によると
1990年代に「Evidence-Based Medicine」という用語を医学教育に導入したそうです。
つまり、エビデンスベースのスタートは医療だったので
お医者さんという例を使ったんですね。
エビデンスに基づいた診療の手法が広まったのは1992年からだそうです。
ということは、バレエの先生の多くが子供の時は
エビデンスベースという考えがなかったというか、認識されていなかったんですよね。
今でこそ臨床判断だけでなく
医療政策、診療ガイドライン、教育、研究評価の基盤として
広く応用されているようですが
歴史的には浅いってことなのかもしれません。
バレエ指導にエビデンスは必要?
医療の世界でも歴史が浅いなら
バレエ指導、ダンス指導にエビデンスは必要なんでしょうか?
私の答えはYESですが、それだけでは足りないですよね。
またまた、バレエの話からちょっと離れた例をお話させてください。
皆さん、
- トイレの後に手を洗います?
- お料理の前に手を洗います?
レンガのお庭で走り回ってた時、足をひっかけて転んで
レンガの角でひざ小僧をぱっくり切っちゃったとしましょう。
お医者さんに行って、縫わなきゃいけないという時
そのお医者さんが手を洗っていなかったらどう思います?
手を洗う話と、エビデンスベースに何の関係があるのかって?
エビデンスベースの医療という考えがなかった19世紀中頃
出産時の母体死亡率を減らすため
手洗いの重要性を提唱したお医者さんがいたのですが
当時は理解されず、手洗いの大切さが一般的になったのは数十年後だと
論文に書いてありました。
ポストコロナのこの時代、手洗いが大切、というのは
東から太陽が上がってくる、というのと同じように
みんなが理解している事実ではありませんか?
もし、手洗いがエビデンスベースで、現代の医療関係者はもちろん
一般家庭でも風邪予防、衛生管理などの大事な知識になっているとしたら
エビデンスベースのバレエ指導について、「必要ない」と言う理由はある?
エビデンスピラミッドって何?
まぁ、日本語でバレエの
解剖学やらエクササイズ理論、指導倫理やダンサーの健康についてを語っている
マニアックなポッドキャストを新年早々お聞きになっている皆さんに
今更「エビデンスベースの指導が必要ですか?」なんて聞く必要はなかったですよね。
みんな、先生の感覚とか、昔からの言い伝え
そのスタジオの願掛けというか、風潮ではなく
エビデンスベースの指導は大事だってことで意見が一致したとして
話を進めていきますよ?
どうやってエビデンスベースの指導をしていくか?の具体的な話の前に
エビデンスベースといっても、白黒ではないという話をさせてください。
科学的根拠には、上下関係があります。
というのも、研究には様々な形、サイズ、やり方があるので
1つの論文=1点、みたいな点数が出来ないんですね。
例えば
「ダンサーの引き上げ」というテーマを私が研究したいと思ったとしますよ?
みんなも知りたくない?
引き上げて!と言われるけれど、それって解剖学的には何なのか?
実際のダンサーの体の中では何が起こっているのか?
本当に踊りに役立つのか?役立つなら、どのように役立つのか?
それってダンサーのレベルによって異なるのか?などなど。
その場合、様々な研究を作ることが出来るんです。
- お友達のプロダンサー1人へインタビューしてみる
- 地方のバレエスタジオ20人の”引き上げ”を筋レンズを使って見てみる
- ケガしているダンサーと、ケガしていないダンサーに、自分の中の”引き上げ”とは何か?を書いてもらい、理解に違いがあるかを調べる
- 引き上げについての解剖学授業を受けたダンサーと、受けていないダンサーに分け、彼らが将来どんなケガをするのかを追いかけてみる
- 全国各地のバレエ学校、バレエスタジオ、バレエ団で“引き上げ”についての勉強を行い、BeforeとAfterの姿勢や踊り方、ケガについてを比べた複数の研究結果を集めて、全体としてどんな傾向があるのかをまとめて分析する
今あげた例は
引き上げについて私が知りたいことを独断と偏見で並べてみたものですし
もしかしたら似たような研究がすでにされているかもしれませんが
エビデンスベースということをよく知らない人でも
- お友達のプロダンサー1人へインタビューしてみる
と
- 全国各地のバレエ学校、バレエスタジオ、バレエ団で“引き上げ”についての勉強を行い、BeforeとAfterの姿勢や踊り方、ケガについてを比べた複数の研究結果を集めて、全体としてどんな傾向があるのかをまとめて分析する
が同じレベルの実験というか、研究にはならないというのは分かるよね?
こんな感じで、研究にはレベルがあり
エビデンスピラミッドと呼ばれることもあります。
- レベル I:複数施設で実施された無作為化(むさくいつか)比較試験、またはそのメタ分析
- レベル II:質の低い無作為化比較試験、前向きコホート研究
- レベル III:後ろ向き研究、症例対照研究
- レベル IV:症例報告や症例集積
- レベル V:専門家の意見、動物実験、実験的研究
と分けられることが一般的です。
さっきの架空の引き上げ実験とあわせてみてみましょう。
- 全国各地のバレエ学校、バレエスタジオ、バレエ団で“引き上げ”についての勉強を行い、BeforeとAfterの姿勢や踊り方、ケガについてを比べた複数の研究結果を集めて、全体としてどんな傾向があるのかをまとめて分析する→ 同じエリアの複数の研究をまとめ、全体の傾向を見るので レベル I
- 引き上げについての解剖学授業を受けたダンサーと、受けていないダンサーに分け、彼らが将来どんなケガをするのかを追いかけてみる→ 時間を追って比較する前向きコホート研究という種類なので レベル II
- ケガしているダンサーと、ケガしていないダンサーを集め、”引き上げ”の理解に違いがあるかを比べる→ 結果から原因をさかのぼる症例対照研究なので レベル III
- 地方のバレエスタジオ20人の”引き上げ”を筋レンズ等で調べてみる→ 観察のみで比較や追跡をしていないので レベル IV
- お友達のプロダンサー1人へインタビューしてみる→ 専門家の個人的意見にあたるため レベル V
どうです?
同じ「引き上げを調べてみよう!」という実験や研究でも
様々なレベルの研究方法があるという感じが伝わったでしょうか?
エビデンスピラミッドの問題
今お話した1~5のレベルは
5がピラミッドの土台の方、1がてっぺんという形になります。
特に、メタ分析と呼ばれたり、システマティックレビューと言われる類は
その前に同じような研究が複数存在していて
それらを集めて傾向をみるということが必要なので
エビデンスの量がある程度必要になるんですね。
また、論文Aと論文Bで相反する意見があった場合
どちらの意見の方がエビデンスレベルが高いかを確認することで
どちらの情報を選ぶべきか?の判断がしやすくなります。
とはいっても、メタ分析が100%正しい!
システマティックレビューが神!というわけではありません。
最近では、エビデンスピラミッドという形は語弊があるのではないか?
などの意見もあります。
特に似通ったレベルは
研究の質、たとえば参加者のバラエティや人数などによって
上下関係が変わるのではないかともいわれています。
ピラミッドだけでなく、今月何度も引用している論文には
エビデンスベースの問題点も書いてあります。
- よい質の研究を行うには時間がかかる
- エビデンスが現場に取り入れられるまでには時間がかかる
- 全ての現場に当てはまるエビデンスが存在するとは限らない
- エビデンスベースのガイドラインが、すべての人たちの好みや状況に当てはまるとは限らない
でもそれは、エビデンスベースで指導すべきか、しなくてもいいか?
という問題ではないのよ。
「エビデンスベースで治療すべき、指導すべき」という部分は
みんなが賛成しているけれど
エビデンスベースといっても鉄板ではないから
問題点を理解した上で、考えて使いなさいよ、ってことなの。
ただし問題が出てくるのは、エビデンスベースで考えるという天秤で
あまりにもエビデンスベースに偏ってしまう問題を指しています。
ご存じのように、日本のバレエ界のバレエ天秤は、まだまだ
- 過去の栄光
- 大先生の鶴の一声
- 数少ない、とっても古い過去の情報
- 自分がそう指導されてきたから、という記憶とバイアスに頼った経験談
という、エビデンスベースとは逆方向に傾いています。
そのため、私個人の意見としては
もう少し科学的根拠が浸透してから
問題点を考えればいいんじゃない?と思ってしまいます。
とはいえ、バレエ界には白黒思考、All or Nothingの人たちが多いから
論文に書いてあったから絶対だ!と思わず
しっかりと読み込むことは大事ですよね。
ということで、科学的根拠とは何を指しているのか?
ということをお話したパート2のポッドキャスト
いかがでしたでしょうか?
来週はようやく
エビデンスベースで指導する方法を
具体的に考えていきましょう。
Happy Dancing!
