DLSポッドキャスト 638 甲出しとつま先を伸ばすことは違う 似て非なるものシリーズ #6

バレエのレッスンでは「甲を出して」とは注意されないですよね?

ではなぜ「つま先を伸ばす=甲出し」という認識が広まったのでしょう?

言葉の意味や時代背景、先生たちの心理から考え、

正確な言葉で指導する大切さを見つめ直します。

Transcript

こんにちは、DLSの佐藤愛です。

今月は「似て非なるものシリーズ」のボリューム2をお送りしたいと思います。

2023年にシリーズを行った際に好評で、ついこの前9月の総集編でも取り上げましたよね。

前回はマインドセット系にフォーカスしたけれど、

今回はレッスンで注意されること、

テクニック的なことにフォーカスしてお送りしたいと思います。

ダンサーがしっかりと理解しておきたいマインドセット、

似て非なるものシリーズ ボリューム1をまとめ聞きしたい人、

ワークブックと共に勉強したい人は、

hello@dancerslifespport.comに「マインドセットワークブック希望」と送ってください。

インスタのDMでコメントをくださっても大丈夫ですが、

DMはへんな内容のものも含め、

たくさん届くのでお返事が遅れていたらメールの方が確実かもしれません。

ボリューム1で5本お届けしているので、シリーズとしては6本目となる

今月第一弾は甲出しとつま先を伸ばすことは違う、というテーマでお送りしたいと思います。

つま先は伸ばさなければいけない

教師のためのバレエ解剖学モジュール1の一番最初に、先生方にお話していることがあります。

それは、解剖学を勉強したからって、解剖学にバレエを当てはめてはいけないということ。

バレエをサポートするための解剖学であり、逆になってはいけません。

バレエではつま先を伸ばさなければいけないというのは事実です。

そりゃそーだって?

たとえ、ポワントで立つために必要な可動域が

通常の可動域を越えなければいけなかったとしても、「じゃー辞めましょう」にならないです。

だから、年齢と実力を考慮してポワントレッスンを始めなければいけないって話は、

8月のセミナーで行ったからもう大丈夫ですよね?

DLSライブラリの1年会員さんは、

シークレットライブのアーカイブがあるページに、このセミナーのアーカイブも入れてあります。

会員料金に含まれているので、まだ見ていなかったらどうぞ。

話を元に戻しましょう。

バレエではつま先を伸ばさなければいけません。

つま先を伸ばすというのは、足首の2つの関節、足(foot)の様々な関節が動くことなんですが、

今日は話の都合上、

そういうものを総合的に合わせて「つま先を伸ばす」という表現を使っていきますね。

もともと宮廷ダンスとして生まれたバレエでは、

当時の貴族たちのマナーであったつま先を伸ばす動きが含まれていたようです。

でもヒールのある靴ですし、長いドレスだったわけだから、

おしゃれな靴の見せつけみたいな部分もあったみたい。

その後、バレエシューズが生まれ、ポワントシューズが生まれ、

チュチュが短くなり…という流れから、つま先のラインは強調されていったみたいですね。

私はバレエ史の専門家ではないので、もっと詳しい方々、

間違ったことを言っていたら教えてくださいね。

その過程のどこかで、

つま先を伸ばすというテクニックが、「甲出し」という言葉に変わっていったようです。

「甲出し」は英語にある?

今から言葉、特に私が使えるのが英語と日本語だけなので、

この2つを比較していきたいと思っていますが、先に1つディスクレイマー。

日本が遅れていて、西洋が進んでいると言いたいわけではないです。

どっちが偉い、良いという話ではなくて、言語の話をしています。

日本よりもオーストラリア暮らしが長い私は、日本語も英語も中途半端なことがよくあり、

そのため海外かぶれ見たいに聞こえることがあるかもしれませんから、

先に注意事項としてお話しておきましたよ。

さて、今回のテーマである甲出しとつま先を伸ばすの違い。

このテーマを考えていた時に、大きなポイントに気づきました。

それは、英語では甲出しに匹敵する言葉がないのです。

そもそも、つま先を伸ばしなさいという言葉は、

point your toesとかstretch your ankleという言葉が使われます。

SNSのコツみたいなところでは、improve your archとかhow to get high archなど、

アーチという言葉と、手に入れる、上達するみたいな動詞が使われます。

足の甲というと、足の表側っていうの?爪側というの?を意識しますが、

アーチと言われると、足の裏側?土踏まず側?に意識が向きます。

そのため、甲出し、という言葉つまり、足の甲側を、

前にプッシュする(=出す)というニュアンスの言葉で考えつくのはGoing Over、

という単語です。

Go=行く、over=超えて、ということで

ルルベやトウシューズだったら、

真っすぐ立つを超えて、反対側へ行く様子に使われる単語です。

足の甲を”プッシュ”するのは正しい?

では、バレエテクニックに戻ってきましょう。

さっき私、バレエではつま先を伸ばさなければいけないと言いました。

それが、バレエに求められるテクニックだからです。

では、足の甲を前にプッシュする、押し出す、必要はあるのか?

そしてそれは正しいバレエのつま先の使い方なのか?

  • ルルベする時に、引き上げてと言われますか?それとも足の甲を前に押して、と言われますか?
  • タンジュする時に、足に体重をかけないと言われますか?それとも体重をかけてつま先を押すように言われますか?
  • ポワントで立つときに、シューズに乗っかり、全体重で足の甲を押して、ポワントで立ちなさいと言われますか?

言われないよね?

バレエレッスンの中では、つま先は伸ばすものと言われるのですが、

  • 動かしている足に体重を乗せてはいけない
  • ルルベやポワントしている足に乗っかってはいけない

という注意をされるのです。

つまり、バレエレッスンでは「甲出し」と「つま先を伸ばす」は同義語ではないんです。

落ち着いて考えてみると、

バレエレッスンの中で「甲出して!」と注意されることはないですよね?

つまり「甲出し」はバレエの注意ではなく、

ストレッチやエクササイズなど、レッスンの「外」で行う行動に使われる言葉のようです。

甲出しは映える

では、どうして「甲出し」が

バレエダンサーや先生たちのボキャブラリーになってしまったのでしょう?

その背景に甲出しは”映える”という残念な事実があるように感じます。

SNSでもbefore/afterが分かりやすいですし、

コンクールでもそういう足の子が上位に入っているかのように見えます。

本来なら、体の全ての関節と同じように、良いレッスンを受けていたら、

徐々につま先の可動域も、筋力も育っていくはずなんですね。

でも、みんな今すぐに手に入れたいじゃない?

そのため、”甲出し”商品はよく売れます。

バレエショップはもちろん、

バレエとは関係のないオンラインショップで取り扱っていることもありますし、

多くのセミナー、eBook、オンラインサロンなどでも「甲出し」商品があります。

商品があるってことは、購入者がいるってことだものね。

さっきもお話したように、「甲出し」という単語は、

レッスン「外」で使われることが殆どのようですから、

レッスン以外の商品が出ているのにも納得です。

そしてね、これらが全部危険だ!って言っているわけではないですよ。

忘れないでくださいね、今日のテーマは「似て非なるもの」。

甲出しとつま先を伸ばす、

同じようなモノを指しているような単語は、実は違うものなんだよという話をしております。

甲出しは危険だと分かっている

甲出し、という言葉を聞いた時、伸びたつま先を連想します?

それとも、トウシューズだったら反対側に転びそうなくらい、

甲が”出ている”様子を連想します?

後者でしょ?

そうなんですよ、今日の最初の方で「甲出し」という単語について考えてみた時に出てきた言葉、

going over、つまり真っすぐ立つを超えて、オーバー、反対側に行くこと。

そういう足を手に入れたいから、レッスンではないところで、甲を出すストレッチをするのです。

これって、解剖学的にはどういう意味なんでしょうか?

2015年に出されたIADMSの「Bulletin for Dances and Teachers」に載っている

学術文献によると

ポワントで立つには足首と足部の柔軟性が必要だと書いてあります。

足首関節が70%、ミッドフット部分が30%貢献しているとのことですが、

同じ記事に「Going Over」は危険だとも書いてあるのです。

危険な理由は靭帯・腱が過度に伸ばされるため、足の安定性が低下するから。

私の意見ではなくて、記事に載っている言葉です。

同じ記事のポワントに必要な項目の中には

  • 強い脚、足首、フット
  • 適度な、だけれども多すぎない、足首やつま先の柔軟性と可動域
  • 強い胴体と股関節周りの筋肉
  • バランス、アライメント
  • 十分なバレエテクニック

が必要と書いてありました。

そのため、ちゃんと勉強している先生なら、

ポワントで立つための可動域と筋力の必要性を理解し、

それらをレッスンの中で育ててくれているはずです。

だけど、過度な可動域はコントロールするように、という注意もしているはず。

バレエ解剖学は知らなくても、正しいバレエレッスンを学んでいる人なら、

さっきお話したように、つま先を伸ばすことはするけど、

体重をかけてぎゅーと押して使わないと言うことも分かっているはず。

だって、甲出しという注意はレッスンの中ではされないからね。

そうは言っても愛さん、バレエ界では甲が出てる方が有利なんだよ、という方へ。

最近は足の甲に貼るパッドも売られていて、

安全に、バレエの見た目を手に入れる方法もあります。

私はこれをズルだと思いません。

だって、舞台でツケまつげ、衣装に胸パッドや肩パットを入れて、

舞台映えする形を作っているなら、

同じ感覚で使えるじゃんね。

ということはよ、「甲出し」を推奨している先生がいた場合、以下のことが考えられるのです。

  • 体の勉強不足
  • バレエの勉強不足
  • 知ってるけど、”結果”のためにダンサーの健康・安全は無視する決断をした

最初の2つは、悪気はないと思うのです。

だって、知らないことは教えられないから。

自分が「甲出し」を教えられてきて、それだけしか知らなかったら、

自分の生徒にそのようなレッスンを指導して当たり前ですよね。

バレエの先生は、指導だけでなく、運営、振付、カスタマーサービスと言う名の保護者対応、

発表会のオーガナイズなど様々なことをやらなければいけません。

そのため、勉強する時間や機会がなかったのかもしれない。

だから私は、こうやってオンラインで情報提供をしたり、

DLSライブラリを介して、お家からでも勉強出来る場所を作っています。

でもね、3つ目の点。

知っているけど、コンクールなど結果のために、

ダンサーの健康・安全は無視する決断をした場合、悲しいなと思う。

無視している、とは思っていないかもしれないです。

そういうつもりはないかもしれません。

  • みんなが求めるから
  • 生徒さんが質問してくるから
  • 保護者からのプレッシャーがあるから
  • SNSで有名なダンサーがやってるから

など、様々な理由があるとは思う。

特に保護者からのプレッシャーは、お話する先生たちの一番の問題みたいです。

そのため、保護者の方々が正しい知識を持つことは、自分の子供を守る一番の方法なはず。

ま、どんな理由だったとしても、結果として、

間違った甲出しは、ダンサーの健康と安全に悪影響です。

  • 靭帯を伸ばすことは、関節を不安定にします
  • グラグラの足首、足(foot)はケガのリスクをアップしてしまいます

人間は、バレエを辞めても、2つの足だけで一生体重を支え、動きを作らなければいけません。

足の痛みがあって、思ったように歩けない場合、健康に影響します。

間違った指導は先生を傷つけることはないけれど、生徒の将来には影響します。

だからね、悲しいなって思うの。

つま先を正しく伸ばそう

つま先は伸ばしてほしいです。

甲出ししたら、絶対にケガすると言っているわけではありません。

レッスンでは足りないから、つま先のエクササイズが必要な人もいると思います。

でもね、「正しく」つま先を伸ばしましょうよ。

ジェスチャーレッグ、つまり動脚のつま先を伸ばすためには

  • 強い体幹
  • 強い軸足
  • コントロール力
  • 運動神経

が必要だということ

軸足のつま先、つまりルルベやポワントのつま先を伸ばすためには

  • 強い体幹
  • 強い足全体の筋肉
  • 正しい立ち方・アライメント

が必要だということ

ジャンプのつま先を伸ばしたかったら

  • つま先が伸びるだけの高さのジャンプ
  • コーディネーション力
  • 脚力

が必要だということも忘れないでください。

つまり、全身の強さが必要だってことです。

また、言葉が与える影響を考えて、

「甲出し」と言う言葉は、ボキャブラリーからなくしませんか?

つま先を伸ばすって言い換えませんか?

バレエやダンスレッスンは、先生が言葉を使って指導します。

フォンジュが溶けるように、みたいな感じで言葉の持つイメージを使ったパの名前から、

引き上げて、ソフトに、のように、黒板に書かれた方程式ではなく、

先生の経験と言葉、時にはデモンストレーションから、イメージして表現します。

だからこそ、ダンサーたちに使う言葉は正確でないと。

そう考えたら、「甲を出す」と言う言葉より

「つま先を伸ばす」の方が的確な指導が出来るのではないでしょうか?

そして、すぐに結果が出ることや、来月のコンクール、みたいな短期な目線ではなく、

バレエ学校、プロダンサー生活、そしてその先の人生まで考えて、

今できる最適なチョイスが出来るようになったらいいんじゃないかな、と思います。

ということで、今日のエピソードでは、つま先を伸ばすことと、甲出しの違いを考えてみました。

来週は、開脚とターンアウトの違いについてを考えていきたいと思いますので、

その話も聞きたい人は、チャンネル登録をお忘れなく。

こういう情報、もっと多くの人に届いてほしいと思ってくださったら、

ポッドキャストへのレビュー、動画へのいいねやコメントをお願いします。

ではまた、来週金曜日にお話しましょう。

Happy Dancing!

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