5歳のバレエレッスンで、スプリッツやルルベは必要?
理解力(脳の成長)はもちろん、運動能力も年齢と共に発達します。
先生や保護者は焦らずに、年齢に合わせたバレエレッスンで、
長く楽しく踊れるように応援してあげましょう!
Transcript
5歳児シリーズその2となるポッドキャストを作っているなんて、それだけで驚きな佐藤愛です。
私個人の考えとして、幼稚園児にバレエは向かないと思います。
そもそも、バレエレッスンの歴史を辿ると、子供たち用に作られていないわけですし、
日本で愛されているロシアバレエ、ワガノワバレエ学校ですら、
10歳からレッスンがスタートします。
そうはいっても、この年齢の子たちの習い事リストには、バレエが上位に入っていますし、
最近ではこの年齢の子たちでもコンクールがあるとか。
正しく勉強している先生なら、古いバレエの指導ではなく、
年齢別に作られたシラバスで幼児クラスを指導している人もいますし、
バレエリトミックのように、バレエの要素を取り入れた、
リトミックを指導しているスタジオもありますよね。
ストレッチもそうですが、正しく勉強している先生なら
ラベルがストレッチだろうが、バレエだろうが、問題ないのかもしれません。
この8月でDLSは12周年を迎えました。
誕生日エピソードでお話しているように、バレエ界が変わっているのだから、
DLSも、私も、進化し続けなければいけないと思っています。
そのうちの1つとして、今まで避けてきた、シニア世代の安全なレッスンについては、
先週行われた「教師のためのライブラリ」の1年会員限定ライブにて
ワークショップを行いましたし、
今月のポッドキャストでは、幼児クラスについてお話しているわけですよ。
幅広い年齢層に、エビデンスベースのバレエをお伝えすることで、
生徒の安全と将来の健康を第一に考えるレッスンが増えてくれることを願っています。
なーんて、すでにエピソードの結びのようなことをお話していますが、
早速今日のテーマ、5歳のバレエと運動能力の発達をカバーしてきましょう。
5歳児の脳の発達
先週のエピソードでは、5歳児の脳の発達をピアジェの認知発達理論と
プラドの論理的思考の発達を心理学的・神経科学的視点から分析した研究を使って
5歳児のバレエレッスン理解力について考えてみましたよね。
詳しい説明は、先週のエピソードを聞いてください。
ちゃちゃっと、復習ポイントだけお話していきます。
5歳児が理解できるバレエレッスンとは、
先生のお手本や、具体的な説明が必要だけど、
必ずしもすべて理解できるわけではなく、
理解していても、できるようになるまでに時間がかかる可能性がある。
複雑な理論は考えられず、間違って理解してしまう可能性もあるからこそ、
繰り返し、シンプルなレッスンを繰り返す必要がある。
鏡を見て、理解するだけの脳の発達はまだできていないだろうし、
コンクールは健全な考え方や発達のために、避けておいた方がよいのではないか。
この子達に必要なことは、完璧にこなすことではなく、チャレンジすること。
そして、その上に私は、DLSでいつも使っている
Happy Dancingという言葉を付け加えたいと思います。
楽しいと思わないと、続かないでしょう。
自分でも何を言っているのかわからないけど、なんとなく発音と形を真似して、
ずーっとアボリジニダンスを踊り続ける姪っ子の様に。
レインボーのアイスクリームを手に入れるためなら、涙を流して主張するように。
彼らがやりたい!と思ったら、
大人が止めない限り、勝手に続けるようになるはずです。
そうすれば、自然とバレエも上達していきます。
周りの大人が焦らなければ。
5歳児とシラバス
理解力はわかった。
でもゆっくりのレッスンとか、繰り返しとか、
いったい何ができるレベルなのでしょうか?
すでにシラバスを勉強している方なら、
脳の発達とか、運動能力の成長スピードなどを考えずにも、
作られたシラバスレベルに合わせて指導すれば問題ないでしょうね。
例えば、私が勉強したBCシラバスは、一応ワガノワバレエをベースにしてあるので、
パの呼び方などは、ワガノワらしいですが、
創立者であり、私の恩師でもあるクリスティン・ウォルシュが作った際に、
夫であり、ビジネスパートナーのリカルド・エラの故郷フィリピンや
生徒が多かった日本など、アジア圏のバレエ事情を考えて、
3歳くらいからレッスンする際には、どういう”試験内容”をすべきかが書いてあります。
”試験内容”と言っても、この子達の場合、集中できるか、
音楽と一緒に動けるか、インプロはできてるか?などが見られているようです。
全世界で多く使われているRADにも幼児クラス用のシラバスがありますよね。
と言っても、日本だけでなく、全世界でバレエの先生は資格が必要ではありません。
バレエだけじゃなくて、ヨガの先生とか、ピラティスの先生とかもそうだけど、
民間資格の場合もあるし、長年やってきたから次の世代に伝える系な先生も多くいるでしょう。
ちょっと余談。
私も、DLS公認スタンスインストラクターという民間資格を提供している側なので、
民間資格がダメ、と言っているわけではありません。
国家資格保持者の人たちも、DLS公認スタンスインストラクターで勉強していたりするので、
どちらかが偉い、でもないです。
シラバスも勉強したからといって、良い先生とは限らないし、
2,30年前に取得したけど、その後は結構自分勝手に指導しているという人もいれば、
最近資格を取ったばかりで、経験値は少ないけれど、
その分勉強した記憶が濃い人もいるかもしれません。
ただね、やっぱり長期コースでしっかりと勉強したい、と思い立った人
自分のお金と時間を使って、試験も含めて勉強している人は、
良い先生の確率は高いよね。
自分の感覚、経歴「だけ」で指導するのがダメじゃないけど、
自分の感覚、経歴とは、先週のエピソードのような脳の発達や、
シラバスのような、世界各国で問題なく使われている方法、
いくつもの試験にパスしなければいけないから、必死で勉強しなきゃいけないコース出身
というような、バックグランドというの?勉強や知識があると、
やはり安心しやすいかとは思います。
知らないことは、予防できない。
これも、DLSでよく使う言葉ですね。
5歳児のバランス力
DLSではおなじみの、IADMS、国際ダンス医科学学会にアップされている情報ブログによると
運動発達(Motor Development)を使って、
「年齢に適した内容を知り、期待値を正しく設定すること」は
指導者にとって非常に大切だと書かれています。
バランスに必要な運動発達が例に出されていましたが、
バランスをとるには
- 視覚
- 前庭感覚
- 固有感覚
という感覚が必要だそうです。
これらの感覚は3〜4歳の子どもにも存在するらしいですが、
統合して機能するようになるのは7歳以降、完全に発達するのは10代後半だそう。
つまり、5歳児クラスでは、バランスが取れなくて当たり前。
その機能を発達させている途中だということですよね。
そして小学生になったら、ある程度バランスが取れるようになるけれど、
完全に発達するのは高校生以降。
この理解が先生にあったら、
幼稚園児クラスにルルベが必要か吟味するだろうし
小学生クラスでポワントは履かせないでしょう。
エピソード513で、しっかりとお話していますから割愛しますけど、
トウシューズの年齢は、最低でも12歳から。
運動能力の発達面からも、
12歳未満のポワントは危険と言われている理由があるわけですよね。
そうはいっても、小学中学年からポワントを履かせているスタジオ、
この前は、小学2年生からトウシューズレッスンをします、と
書いてあるスタジオウエブサイトも見ました。
生徒の安全と将来の健康を第一に考えるレッスンが当たり前になる夢は、
まだ遠いようです。
その他の例は、
- 首を傾けることができる
- 床を移動しながらターンできる
けど、それらを一緒に行うのは、ある程度の年齢になるまで不可能だとか。
その理由は、5歳児の才能や、バレエに向いている体かどうか、ではなくて
単純に年齢的に発達していないだけ。
ただ、バレエ歴が長い先生は忘れちゃうんですよね。
自分の中では初歩的なステップで、すでに身についているし、
年齢的に理解も、発達もできている。
だから、幼児クラスは、ゆっくりやればいいんでしょ、と言っていても
動作分析をすると、複数の動きが入りすぎていることがよくあります。
そのため、DLSインストラクターコースの続き、アドバンストコースでは
幼稚園児のエクササイズクラスは、小学生クラスとは全く違うんだよ!
と説明していますし、
この理解を踏まえた、アセスメント提出が必要になっています。
年齢と移動運動スキル
じゃ、この子達には何ができるのか?
移動運動スキルの発達順序と年齢目安を見てみましょう。
- 歩行(walking):10〜15か月
- 高度な協調性を伴う走行(running):2歳
- さまざまなジャンプ(jumping):2〜3歳
- ギャロップ(galloping):2〜3歳(6か月間走ることができた後に出現)
- ホップ(hopping):約3歳半から始まり、5歳を過ぎても発達が続く
- スキップ(skipping):最後に発達し、4〜7歳の間に現れる
移動運動スキルというと、なんだか難しいけれど、
歩くとかスキップも体を動かして、重心移動するので、移動運動スキルに含まれます。
こうやって見てみると、5歳児のバレエレッスンに
- ギャロップ
- ホップ
- スキップ
が含まれている理由がわかるでしょう?
そして、これらはターンアウトはしませんし、
足を高くあげません。
つま先をしっかりと伸ばして!というのもレッスンのゴールにはなりません。
もちろん、つま先が床から離れたら、伸ばすんですよーと練習はするかもしれないけど、
それは理解を増やすためであって、
実際に体ができるか否か、は関係ないわけですよね。
ほら、先週のエピソードでもお話したように、
理解できていても、まだできない動きがあるわけだから。
5歳児のポーデブラと、お膝
同じくIADMSの記事には、
「腕の使用(特にダンス特有のパターン)における完全な協調の発達には、
さらに時間がかかる場合があります。」と書いてありました。
バレエの言葉に変更すると、
腕のポジションはできても、それを通過して使うポーデブラは難しい。
つまり、この子達は、すっごくシンプルなポーデブラすらできない可能性があります。
- ブラバーから、両手をバーに乗せる
- 両手バーから、ブラバーに戻す
- ブラバーから、1番ポジション、そして手を腰に
などの動きは、とーってもシンプルに感じるけれど、幼稚園児クラスだったら、
繰り返し、長期にわたる練習が必要だってことだよね。
「教師なら誰でも知っているように、ジャンプにおける脚の伸展やつま先のポイントなどの
洗練された動作を身につけるには、何年もの練習が必要です。」
とも書いてありますが、果たして、バレエの先生は「誰でも」知っているんでしょうかね。
- 膝が伸びない
- つま先が伸びない
だからストレッチさせる、という先生たちの多いこと!
しかもどこから拾ってきたか分からない
「幼い時じゃないと、体は柔らかくならないから」という言葉とともに、
彼らの将来のケガにつながるような、先生が押すストレッチをやるわけですよ。
どうして、私がストレッチ反対だと言われるか。
ストレッチがダメじゃないけど、体への理解がないと安全にできないと
伝え続けて12年経つんだけど、
自分たちがやっていることを正当化するために、
「愛さんはそういうけどね」としておくのかもしれません。
国際ダンス医科学学会の、しかも博士号を持つ人たちが連盟で書いた記事を、
読みやすいように、日本語にして伝えているだけなんだけどさ。
「バリスティック(ballistic)スキル、つまりグラン・バットマンや大きなジャンプなどは、
開発が特に困難であり、単なる筋力ではなく、高度な運動パターンの形成が必要とされます。」
とも書いてあります。
グランパドシャなど、大きなジャンプはやるべき年齢があるよ、とお話したインスタライブ、投稿、
そしてポッドキャスト(エピソード488 グランパドシャを上達させる方法)がありますので、
この部分は、すでに皆さん分かってますよね?
安全に幼稚園児を指導するには
さっきお話したように、しっかりと作られたシラバスを、
正確に指導していたら、そのステップが出てくる年齢があるし、
シラバスを勉強していなくても、子供たちの発達を理解したら、分かることもある。
私がDLSを通じてやっている行動の上澄みだけを見てみると、
バレエは危険だ!と伝えているように聞こえてしまうかもしれませんよね。
バレエダンサーの6人に1人が摂食障害とか
バレエの先生はリスクの1つ。
ダンサーに起こりえる様々なケガやら、年齢どーのこーの。
どうしてこんなにバレエって大変なの!?
と思う先生たちも多いでしょうが、事実としてね、
3歳から70歳までバレエを指導しているとしたら、
幼稚園の先生、小学校の先生、中学校の先生、高校の先生、大学の先生、
会社勤めの人たちから、介護センターの中まで。
このような幅広い年齢層を指導していることになるわけです。
そりゃ、大変に決まってますよ。
だからこそ、先生たち向けのオンデマンドセミナーが詰まっている
教師のためのライブラリを作ってあります。
聞き流ししながら、勉強できるポッドキャストを10年以上お届けしています。
ただ、覚えておいてください。
いくら情報を手に入れても、行動に移さなければ意味がないんです。
バレエが危険だと言っているわけではないですが、
指導者の知識不足と、保護者の焦りが、
結果、子供たちを傷つける行動に進んでしまうとは思います。
保護者向けのオンデマンドセミナーも作ってありますので、
保護者が知っておきたいことは、そちらで勉強してくださいね。
ということで、今日のエピソードでは、5歳児の運動能力について
エビデンスを見ながらお話してみましたが、いかがでしたでしょうか?
ポッドキャストを応援してくださる方は、
お聞きのアプリで登録とレビューを残してくださったり、
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ではまた、来週のポッドキャストでも5歳児とバレエについてを見ていきましょう。
Happy Dancing!
