DLSポッドキャスト epi588 デンマーク王立バレエ団のお給料は?

「バレエで生活できるの?」そんな不安ありませんか?

公演数、契約、給料を国ごとに比較し、バレエ界と社会のつながりを探りました。

日本で働くバレエダンサーの待遇を改善するヒントも見えてきます。

Transcript

バレエ団で働きたくて、カスタマーサービスにメールを送ったことがある佐藤愛です。

DLSを長くフォローしてくださっている皆さんなら、

この話を何度もしたことがあるのでご存じだと思うのですが、

履歴書とカバーレター、経歴を説明したメールを

チケットとかの問い合わせを行うところに送ったんですね。

だって、誰に送ったらいいのか分からなかったので。

返事が来なくて当たり前、というスタンスで、だけど夢には挑戦しようと思って。

ボランティアでいい。勉強したい。経験したい。という旨をつづった記憶があります。

数日後、医療チームの一人から電話があって「来週の火曜日においで」と言われました。

その後は、1年ほどずーっと通い続け、

カンパニーの皆さんにも知ってもらえるようになったし、

マッサージ師がお休みの時は、私がカバーすることになったし、

シドニーツアーの裏にも連れて行ってもらいました。

その時にメンターとしてついてくれた人が、たまたま同じ誕生日だったことや

日本人ダンサーも多く、仲良くなれたのも長くいられた理由の一つだったと思います。

その後もカンパニーからエクストラの人手が必要な時に電話があって、

スケジュールが合えば単発で出向いていましたね。

そういう繋がりから、元プリンシパルのグループ達がオーガナイズしたホリディハウスに、

専属セラピストとして呼ばれたり、プリンシパルのお家で個人的に治療したりもしていました。

周りの人に恵まれていたことは絶対なんですが、

自分で行動をとることも大切だったんだろうなと思います。

バレエ学校を卒業してからかなり時間が経っていますし、

様々なマイナスの経験を今の仕事の糧にしていますけど、

1つだけ今でも後悔していることがあります。

それは、カンパニーオーディションを受けなかったこと。

よく分からないけど、行動を起こしたオーストラリアバレエ団とは異なり、

オーディション用ビデオを送らず、

周りの子達が参加していたメルボルンのオーディションにもいかず、

2年生の途中で既に、私はバレエを辞める考えを固めていました。

ケガは治らないし、上達した気はしないし、いつも「太っている」と言われるし。

チャレンジする前から、諦めていたんですよね。

それと、バレエが嫌いになってしまったことも、行動を移さなかった理由の一つだと思います。

皆がオーディション準備をしていたとき、

私はメルボルンの留学センターなどを回って、大学を探していました。

解剖学を勉強し、ケガについての知識を増やし、自分のケガの理由を探すために。

でも、その話は今日のテーマではありません。

今月は、デンマーク王立バレエ団のディレクターのインタビューポッドキャストを使って、

バレエ団について勉強しています。

過去2回のエピソードは、

オーディションについてお話されている部分を分析していったのですが、

今日はバレエ団の生活、特に仕事量とお給料についてみていきたいと思います。

デンマーク王立バレエ団の規模

2025年8月に出されたポッドキャストインタビューによると、

このカンパニーには85人のダンサーがいるそうです。

ただし、その数字にはアパレンタスは含まれないんですって。

ちなみにアパレンタス、アプレンティスとも言われるこの言葉は、

見習い生とか実習生という意味で、バレエ以外でも使われますよね。

ビジネスだとインターンシップと呼ばれることの方が多いかもしれませんが、

同じような意味合いです。

最初にお話した、私のオーストラリアバレエ団の経験は、

アパレンタスポジションだった、と言ってもいいかもしれません。

メンターだった治療家に就いて、

カンパニーで行われている治療、予防治療、エクササイズなどを学んでいたので。

インタビューによると、

学校側がアパレンタスプログラムを運営していて、

カンパニーディレクターは給料部分はよく分からないと言っていましたが、

ここで言う給料、サラリーというのは毎月出る固定給のことですから、

無料で働いているわけではありません。

Amy曰く、「彼らが公演ごとに支払いを受けていることは知っています」だそうです。

85人のダンサーとアパレンタス達、というのが

バレエ団としてどれくらいの規模なのか分かりづらいですよね。

比較の為に調べてみたところ、

日本の新国立バレエ団のサイトに載っている名前の数は約70人、

それにアパレンタスとキャラクターダンサーがいるとなっていました。

オーストラリアバレエ団も同じくサイトに載っている写真を数えたところ、

やっぱり70人弱でしたので

全幕ものもこなせる人数なんだろうなと思います。

ちなみに今回3つのカンパニーを比較に選んだ理由は、

北欧、オセアニア、アジアという3大陸の違いを見てみたかったから、

そして多くの皆さんが住んでいる日本、私が住んでいるオーストラリアなど、

想像しやすい国を選んだからです。

バレエ団の公演数とスケジュール

次は公演数やスケジュールを見ていきましょう。

バレエ団員の契約は12ヵ月契約だそうですが、

働くのはおおよそ8月1日から6月1日までの年間10ヵ月なんですって。

デンマークにはたくさんの祝日があってお休みになるのと、

オーストラリアもちゃんと休みになりますが、

イースターブレイクも1週間お休みになるそうです。

くるみ割り人形シーズンが終わってから1月頃には10日間の冬休みもあるということで、

ちゃんとした、という言い方はおかしいかもしれないけど、

北欧らしい社会人スケジュールですね。

先週も、先々週もお話しましたが、

海外のバレエ団全てがこういう感じで、

毎日レッスンやリハに出ても、舞台に出なかったらお給料がでないのは

日本特有だと思わないでくださいね。

国立だから、王立だからシステムが整っている!

と決まっているわけでもないと思います。

それよりも、その国の水準に影響される気がします。

特にその国の雇用形式の水準とでも言うのでしょうか。

お給料の話が後から出てくるのですが、そこでも国の水準が良く見えます。

その話はもう少し待ってくださいね。

1年契約のうち、10か月働き、

祝日など休みが入るというデンマーク王立バレエ団でしたが、

1年の公演数は約133公演だそうです。

10作品ほどを1年で行うということですので、

1プログラムを10回以上行うという計算になりますね。

このような数字だけではよくわからないので、先ほどと同じように、

日本の新国立バレエ団とオーストラリアバレエ団とも比較してみましょうか。

オーストラリアバレエ団は公式に年間公演数が発表されてはいないものの、

200公演前後と言われていて、世界でも多い公演数をこなすことで有名です。

この前発表された2026年シーズンは6プログラムでした。

裏で働いてきたときに聞いたのですが、

メルボルンのアートセンターに入れる人の数とシドニーオペラハウスに入れる人の数では、

メルボルンの方が大きいそうです。

そのため、見たい人たちが見られるようにシドニーでの公演数が多くなるという話でした。

新国立バレエ団は2025/26シーズンは

9作品、73公演予定だとサイトに書いてありました。

単純な数字だけの比較ですと,

バレエ団員数はほぼ一緒なのに、公演数には大きな差があります。

プログラム数が、デンマーク10、オーストラリア6、新国立9なのを考えると、

新国立は1作品をあまり多く上演しないんだろうな、ということが考えられます。

オーストラリアバレエ団の医療チームは世界トップで知られていますが、

年間200近い公演をこなしても、ダンサーがバタバタと倒れていかないのは、流石ですよね。

そんな発表はされないだろうけど、各国のバレエ団ケガ率を見てみたいものです。

Again,単純な数字からの推測だけですが、

公演数が少ない新国立バレエ団では、ダンサーがケガしても

他の人がカバーする余裕があるんじゃないかと思われます。

ただ200公演もするんだったら、カバーダンサーの負担が大きいでしょう。

そのため、医療チームが大切になってくるんでしょうね。

ダンサーの初任給

ポッドキャストではお給料についても話がありました。

残念ながら、お給料セクションは比較材料が見つかりませんでしたので、

デンマーク王立バレエ団についてポッドキャストで話が出ていた部分をお伝えしますね。

もちろん、ネット上に推測みたいなのはあったのですが、

どこまで本当なのか、福利などの手当の有無、雇用形態などが分からないため、お話しません。

カンパニーの初任給は1か月あたり2万4千デンマーク クローネだそうです。

日本円にすると約52万円8,000円。

そのうち12%が退職プラン、年金みたいなイメージですね、に入るそう。

契約の中にはデンマークの法律に含まれている、

父親の育児休暇と母親の育児休暇があるほか、

たくさんの福利厚生が含まれているとお話がありました。

デンマークは無料の医療制度があるので、

ケガしたダンサーの治療も無料なのではないかと思われます。

ちなみにオーストラリアバレエ団も、

カンパニー内で治療を受けること、トレーニングやコーチングなどは無料だったと思います。

52万円ももらえるの!と思った人たち、

お給料はその国の物価とも関係しますし、税金の高さにも影響しますから、

日本の感覚ではないかもしれないよ?

物価の高いオーストラリアにいる私から、一言入れておきますね。

バレエでは食べていけない?

ということで、今週のエピソードでは

オーディションに受かった場合、

バレエ団はどのようなスケジュールで、給料はどんな感じなのか?

を分析してみました。

このポッドキャストを終わりにする前に、

暗黙の了解のような「バレエでは食べていけない」について

ちょっとだけ考えていきたいと思います。

日本は世界まれにみるバレエ人口の多さで有名な国です。

だからこそ、バレエコンクールという”ビジネスモデル”が成立します。

とはいえ、

  1. 正団員でもお給料が少ない
  2. ケガして舞台に立たなかったら、お給料が出ないから休めない
  3. 食べていけないからバイトをしなければいけない

などの話を聞きます。

元生徒で、日本の比較的名前の知られているカンパニーで働いていた子は、

公演が終わってから数か月しないとお給料が振り込まれないことがあって

困っているダンサーが多いと言っていました。

私の勝手な考えですが、

この理由の裏にはバレエ界を超えた、国の基準があると思っています。

例えば、先ほど見たようにデンマークは医療が無料だったり、

休暇がしっかりとしていたり、産休、育休がしっかりとしています。

これは、バレエ団が偉いのではなく、デンマークという国のルールです。

学業、医療などが無料の代わり、税金は非常に高いことでも有名ですよね。

日本は、そしてこれは私が調べた限りなので、

間違っていたらぜひ教えていただきたいのですが、

労基法第35条で毎週少なくとも1日お休み、

もしくは4週間で4日お休みを与えなければいけない事になっていますが、

休日出勤したら35%以上の上乗せが必要、

就業規則で所定休日を定めている場合はそうではなかったりなど結構穴があるようです。

チケットの曜日をみても

日本のバレエ団で働いているダンサーは

休日、祝日は舞台があるのではないか?と思われます。

比較のために、オーストラリアのバレエ団は日曜日に舞台がありません。

2021年の調査によると、

男性一般労働者の給与水準を100としたとき、女性の給与水準は75.2と低く、

世界的にも男女差が大きいと内閣府公式にも書いてあります。

それについて何をしているのかわかりませんが…それは置いておいて。

こうやって国の方針を見てみると、

なんで日本のダンサーが「生活していけるだけのお給料がない」と言うのか、

環境や、文化の違い、そして人種差別があるなかでも、

海外で踊りたいと思うのかが見えてくる気がします。

すべてが解決するとは思っていませんが、

しっかりと考えて選挙に参加することは、

日本のバレエ界を良くしたいなら必要なんじゃないかな?

と今回のリサーチをしていて感じました。

税金が少なければOKで、有名な人だから投票する、というような考え方ではなく、

文化や健康、平等な雇用機会などを改善出来たら、

法的に日本のバレエ界もダンサーの面倒を見なければいけなくなる気がします。

ま、海外在住者で日本のことをよく分かっていない人間が、

客観的ではあるもののエビデンスベースではなく考えたアイデアだけでございます。

でも、投票率が上がったからって、ダンサーに不利にはならないと思うんですけどね。

今日の最後の比較。オーストラリアでは投票に行かないと罰金です。

デンマークの投票率は85.5%(2022年)だそうです。日本は50%以下ですって。

ただの数字ですからね、そこから何を読み取るかは皆様にお任せします。

デンマーク王立バレエ団芸術監督のインタビューを分析している今月のポッドキャストシリーズ。

最終回の来週は、ディレクターから若いダンサーへのアドバイス部分を聞いてみたいと思います。

Happy Dancing!

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