DLSポッドキャスト epi619 オーバーストレッチが必要な踊りだったら?

「この振付にはオーバーストレッチが必要」と思い込んでいませんか?

バレエの上達に本当に必要なレッスンやエクササイズを、解剖学とエビデンスをもとに整理。

安全で効果的な指導を考えたい先生・保護者・生徒におすすめです。

Transcript

こんにちは、DLSの佐藤愛です。

今月はオーバーストレッチをテーマにしているDLSポッドキャストをお送りしていますが、

最終回の今日は

「そうはいっても愛さん、オーバーストレッチが必要な振付なんですよ」

という意見についてお答えしていこうと思います。

今回のシリーズを最初から聞いていない人は、そちらを先にどうぞ。

エピソード616から3回、様々な論文や文献、記事を使って、

オーバーストレッチについてを多方向から研究しています。

バレエコンクールの隠蔽気質

「オーバーストレッチが必要な振付なんですよ、だから練習しないと」と言われたら、

私の最初の反応は「振付作っている人がいけないじゃん」になります。

でも、それで終わりにしてしまってはちょっと悲しいでしょう?

先週のエピソードでお話したように、クラシックバレエの場合は

オーディションでも、手を使ったY字バランスや、床での開脚は見られないとお話しました。

だけど、最近のダンサーはクラシックバレエだけじゃ足りないでしょう?

そして特にコンクールで、コンテやモダン、ネオクラシックの振付で

オーバーストレッチが必要だと思われる振付が見られることは分かります。

それらに点数がつくという噂もよく聞きます。

噂、と言った理由は、殆どのコンクールが、評価方法、点数配分について明記していないからです。

バカみたいに蹴り上げたアチチュードをしていたから1位になったのか、

そのほかの部分で抜きんでていたのか分からないんです。

点数のつけ方も分からなければ、審査員がどうして選ばれたのかも明記されていません。

そのため、参加者は、目隠し状態で練習をするわけです。

スポーツではこれは出来ないですよね?

サッカーでも、バスケでも、体操やフィギュアスケートのように芸術点があるものでも、

どのように点数が付くのか、なにがOKで、なにがダメなのか、明確に、みんなが知っているルールがあります。

ルールが変わったり、追加されることはあるそうですが、それでも存在します。

バレエコンクールは、競争というスポーツの部分を、

バレエという芸術の部分で隠していて、なぁなぁにしている気がするんです。

もちろん、全てのコンクールがそうだ!と言い切っているわけではないですが、

日本で行われている小さなものは、そういう感じだという意見は、

日本のコンクールを調査している研究家の先生も仰っていました。

隠蔽気質とでもいうんでしょうかね?

振付を選ぶ権利がある

ま、よく分からないコンクールの点数方法は置いておいて。

創作ダンスの場合、振付は決められていないことが多いでしょう。

古典バリエーションだって、リストの中から選べます。

ということは、オーバーストレッチが不要な振付を選ぶことができるってことじゃない?

「それだと点数にならない」「それだったら入賞しない」という意見は、今日は無視します。

だって、今日のテーマは「オーバーストレッチが必要な踊りだったら?」であり、

「オーバーストレッチをしてでも勝つべき?」ではないからです。

古典バレエでは、グランパドシャが入っている振付がたくさんありますよね?

そうしたら、前後開脚のオーバーストレッチ必要じゃん?って思うかもしれない。

だけど、どこまで開くか?とどのような練習をするか?は選べるんですよ。

例えば、グランパドシャはチュチュのちょっと下、180度弱の開脚だったとしても、

そのポジションが、そしてそれ以外が完璧だったら点数が低いとは思えないのです。

また、グランパドシャのための練習として、床でのオーバースプリッツ、過度な前後開脚を選ぶか、

  • 長時間空中に滞在できるジャンプ力
  • スピーディーに最終ポジションにつける脚力
  • 空中で、しかも重心移動がある中で、膝やつま先を伸ばす筋力や体幹の強さ
  • 余裕があるように見えるための、上半身やポーデブラ

の練習をするかを選択することができるはずです。

このシリーズを聞いてくれている人達なら、オーバーストレッチの定義は

  • 関節や筋肉を、正常な関節可動域を超えたり、組織のケガや成長段階を考慮せずストレッチすること
  • ダンサーを、人間の正常な関節可動域を超えたり、彼らのケガや年齢に適さない、またはバレエに不必要なストレッチをさせること

だと勉強しているじゃない?

そして、オーバーストレッチだろうが、ストレッチだろうが、

勉強していないのなら、指導できないというコンセプトも知っていると思う。

そうしたらね、

バレエのトレーニングを受けてきて、バレエの指導法を学んできた、バレエの先生だったら、

バレエの指導をしてほしいって願うのは私だけ?

アンシェヌマンの目的、作ってる?

さっき例に出したグランパドシャを例にとりましょう。

  • 長時間空中に滞在できるジャンプ力
  • スピーディーに最終ポジションにつける脚力
  • 空中で、しかも重心移動がある中で、膝やつま先を伸ばす筋力や体幹の強さ
  • 余裕があるように見えるための、上半身やポーデブラ

が必要だとしたら、どうやってレッスンで育てます?

「グランパドシャを練習します」

と答えた人はやりなおし。

出来ない動きを練習してても、出来るようにはなりません。

出来ない動きの一つ前を練習する必要があるからです。

バレエだけでなくて、全ての技術取得で一緒だよね。

間違えた方程式を、何度も解いていても、間違えたままだけど、

間違えた部分だけ取り出して、少し簡単な問題で練習するから、

最終的に方程式の正しい答えにたどり着くでしょう?

でも、この考え方は、指導法を学んでいるなら分かっている事だと思うので飛ばしますね。

長時間空中に滞在できるジャンプ力を育てたかったら、プリエの強さを作る必要があります。

レッスンでいつも、ソフトなプリエしか練習していなかったら、

ジャンプで必要な素早いプリエは出来ないでしょうね。

しかも、グランパドシャのプリエは片足踏切なんですよ。

つまり、片足で、プリエの正確性や安定性を育てなければいけないと分かります。

出来たら、ポーデブラのタイミングと一緒に。

バーレッスンで、この部分を意識したアンシェヌマンを作っているかしら?

練習していないなら、できるようにならないですからね。

2つめのポイント「スピーディーに最終ポジションにつける脚力」も同じように

バーレッスンで取り入れているかを考えてみましょう。

グランバットマンが一番近い動きにはなりますが、それだけではありません。

  • 勢いよくあげた足を止める練習
  • 90度でもシャープに上げる練習
  • 素早くデベロッペして、一番高いところで足を止める練習

なども含まれているはずです。

4月末に行った、先生向け無料ワークショップでもこの話をしたのですが、

全てのアンシェヌマンには、理由、目的、フォーカスがなければいけません

「昔からやってきたから」で、バーレッスンをメニューの様にこなしていたら、

生徒達に何を上達してほしいんでしょう?

もし出来ない動きがあるなら、できるようになるような、プランを提供するのが先生のお仕事なわけでしょう?

  • プリエはいつもフォンジュの様に柔らかいもの
  • ジャンプでは片足ジャンプ、片足着地の練習に重きが置かれていない
  • グランバットマンはバーを握って、勢いであげて、勢いで下ろしてくるだけ

だったら、そりゃーグランパドシャへの上達に繋がらないですよね。

もちろん、グランパドシャとは難しいステップなので、それ以前のテクニックが出来ている必要もあります。

”オーバー”の前に

今日お話してきたように、振付でオーバーストレッチ、

つまり関節可動域を超えるような動きを行わなければいけない場合というのは、少ないと思われます。

指導者が、もしくは参加者が選択できる部分がたくさんあります。

たしかに、役によってオーバーストレッチが必要なことがあるかもしれません。

くるみ割り人形のアラビア、キトリの1幕バリエーションのシソンヌなど。

そして、たとえそのような動きがあったとしても、さっき見てみた、グランパドシャの例の様に、

床でのストレッチではなく、バレエのレッスンで練習すべきことがたくさんあるはずなんです。

そういったレッスンをやっていたとしても、ストレッチが必要な人はいるか?

答えはYESです。

先週のエピソードでお話したように、関節の柔軟性には遺伝要素が大きくかかわるからです。

また成長期のように、体が一時的に硬くなる時期もありますし、

水分不足、休息不足で、夏場のリハーサルが続く日々の方が、

数か月前よりも体が硬く感じることはあると思います。

だから、いつもより体が硬いな、前より足があがらなくなったな、と思うダンサーがいて当たり前だと思うの。

ただし、

  • 元々体が硬い人
  • 成長期の様に、年齢や成長の過程で体が硬くなる人
  • 体調、環境要因で体が硬く感じる人

の場合は、オーバーストレッチしたら最悪大けがに繋がりますから気を付けてくださいね。

こういう人達こそ、緻密に必要な部分の、

ケースに合わせた安全なストレッチをゆっくりと行っていく必要があります。

つまり、オーバーストレッチの前に、ストレッチが必要だってこと。

筋肉のストレッチだけでなく、

筋膜だったらリリース、神経だったらフロッシング、

関節だったらモーバライゼーションなど、

問題となっている組織に合わせた柔軟性向上のためのエクササイズが必要です。

だってさ、骨の形やコラーゲンの状況が影響して体が硬いのなら

無理やりストレッチしても変わらないのよ。

逆に炎症、骨折、損傷などケガに繋がってしまう。

体が硬い人「こそ」、

オーバーストレッチは危険だし、必要ないし、指導には細心の注意が必要です。

知識があれば柔軟性は向上する

ということで、オーバーストレッチの必要な踊りだから、

オーバーストレッチしなきゃいけないでしょう?という質問にお答えしてみました。

シリーズの最後にもう一度言っておくね。

ストレッチがダメだとは一度も言っていないからね?

ただ、SNSで見たオーバーストレッチや、昔からやってきたからというストレッチに手を出す前に

しっかりとリスクと、自分自身の知識を確認してください。

最後に、そのようなオーバーストレッチをさせている

スタジオに通っているお子さんがいる保護者の場合は

そのスタジオに通い続けるべきかを、しっかりと考えましょう。

また、くれぐれも、シロウトの保護者が、YouTubeで見たからっていうストレッチをさせないでくださいね。

ということで、6月のオーバーストレッチシリーズはここまでとなります。

全てのエピソードを聞いてくれた方、

ぜひ感想や、初めて知ったこと、まだ残っている疑問などを教えてくださいね。

hello@dancerslifesupport.comが私のメールアドレスになりますが、

スペルを覚えられなかったらインスタのDMでも大丈夫です。

ポッドキャストのレビューやYouTubeのコメントは、

このようなダンス医学の知識を多くの人達に知ってもらえるチャンスを増やしてくれます。

毎日頑張って、痛みを我慢して努力していたのに、

結果踊れなくなってしまうようなダンサーを減らせるためにも、

ぜひご協力をお願いします。

ではまた、来週のポッドキャストでお会いしましょう。

Happy Dancing!

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